第2話 元、彼女?

 朝、目が覚める。


 日常習慣というのは素晴らしいもので、決まった時間に目が覚めるのだからありがたいことこの上ない。


 ベッドから降りて、洗面台へと行き、顔へと水をかけて寝起きだった目を覚ましていく。バシャバシャと水をかけ、鏡を見ると能面のような顔がそこにはあったため、無理やりにでも人間に近づこうとするように、人差し指で口角を上げるがなんとも不格好な表情の男がそこにはいた。


 いつも通りで、特に何にも思わずタオルで水を拭いてから朝食の席に着く。朝食だけは両親、そして夜嘉に迷惑をかけてしまう。僕なんかと一緒に食べなくちゃいけないから。


 リビングに行くと、お父さんはいなかった。どうやら今日の朝は早かったみたいだ。


「おはよう、お母さん、夜嘉」

「お、おはよう柊」

「おはよう、兄さん」


 二人は此方に視線を向ける。母さんは恐る恐る窺うように。夜嘉は何とも言えなさそうな瞳で此方を射抜いていた。


 席について、手を合わせて「いただきます」を言ってから食べ始めた。


 特に会話をすることもなく、たまに此方へと気を使ってか話を振ってくれる二人に合わせて無難な対応をしていく。


 出来るだけ早く食べ終えてから歯磨きをして身形をある程度整え、今日の授業は何があるのかを確認て忘れ物がないことを確認してから家を出た。夜嘉が何かを言っていた気がしなくもないが、きっと僕になんてあの優秀な妹が用事なんてあるはずがないと思いそのまま家をでた。


 駅まで、今日の小テストの内容を思い浮かべながら歩く。


 改札を通り、電車に乗ってカバンから資格の参考書を出してそれを読みつつ無駄な時間を活用していく。


 数十分とかからず電車から降りて改札を抜け学校へと行こうとすると、そこで声がかかった。


「しゅ、柊君」


 振り返ればそこには僕の元、彼女だった神崎桃花がそこにはいた。


「なんですか?神崎さん。何か僕に用があるんですか?」

「……ご、ごめんなさい。しゅう君」

「ごめんなさい?」


 何を彼女に謝られているのだろうか。僕が不甲斐なくて劣っていてどうしようもなかったから。彼女が謝る必要なんてないのに。


「ごめん.......なさい」

「…何を謝られているのか分からないですけれど大丈夫ですよ。それと毎朝こういうことをしない方がいいと思いますよ。新しい彼氏さんに悪いですから」

「っち、違うの。あれは.......」


 と何かを言いかけて何も言葉が出ずに口をパクパクしている。数秒だけまったがそれ以上何も出なかったので、頭を下げてから僕はその場を去った。


「ごめんなさい」


 と最後に小さくボソッと耳へと入ってきたような気がするが、本当に彼女は何を謝っているのだろうか。


 教室に入り自席に入るまでそのことを考えてはいたけれど、やっぱり僕には何も思い浮かばなかった。





 放課後になった。


 他の人たちが教室の掃除を途中で放り出してしまったため、僕が一人で教室を掃除し終わるころには日が少しだけ傾いていた。


 明日の授業内容と持って帰る教科書、そして小テストを確認してから教室を出てからぼぉっと何も考えずに外へと出る。


 夕日を見ながら歩いて行けば、ふと視界に人影が写った。それは、特別棟の屋上で本来生徒は誰も入ってはいけない場所だった。


 よく見てみれば、この学校では誰でも知っている人でそれは眉目秀麗で僕とは違って非の打ち所がないと言われている生徒会長だった。


 どこか中学時代の僕に似ているように見えたので、吸い寄せられるようにそちらへと足を向けていた。

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