第3話 自殺ってあんまりよくない

 吸い寄せられるように、特別棟の屋上へと階段を上がっていく。鍵がかかっていると思われた扉も難なく開き屋上へと足を一歩踏み入れた。


 雲一つもない空へと一瞬だけ目を奪われるが、目を前へと移すとそこにはやはり生徒会長さんがいた。


 屋上の扉を開けた音で此方には気付いていたようで、此方をじぃっと見ていた。


「えぇっと、ここは生徒は立ち入り禁止のはずだけれど。何か用かな?」

「そうですね。生徒立ち入り禁止の場所に生徒がいたので少しだけ様子を見に来ました」


 そう言うと彼女は痛いところを突かれたような顔をしてから、目を空へと移した。


「私は.......生徒会の用事で先生に少し頼まれたのでここにいるんだ」

「そうなんですか。それで、用事は済んだんですか」

「それは.......」


 とそこで言葉に詰まってしまった生徒会長さんはバツが悪そうな顔をしてあきらめたような顔をして此方の顔を見る。


 そして、彼女は何かを察したかのような顔をしてから、ふっと息を吐いてこう話し始めた。


「本当は先生から用事なんて頼まれてないよ。ただ、ここで.......」


 そういってまた言葉に詰まった。


 何も言せずにいた。何故かみていられず僕は口から言葉が漏れていた。


「自殺ってあんまりよくないことみたいですよ」

「え.......?」

「周りの人が悲しむみたいです。それにお葬式の費用とか学校の評判が落ちるなんてこともあるみたいです」


 僕がそういうと生徒会長の顔が固まった。


「僕もしようとおもったんですけれど、止められました。それに結構痛いし苦しいんですよ。だからあまりお勧めしません。やるなら自立してからした方がいいって思います」

「……」

「なんか、生意気言ってすみません」


 過去を思い出してそんなことを言った。


 口に出してから余計なことを言ってしまったと後悔する。


 そういって頭を下げてからもう一度生徒会長の顔を見ると呆けたような顔を数秒した後、何かが可笑しく感じてしまったみたいで口に手を当てて笑みを浮かべた。


「ふ、ふふっ。あはは。そ、そうなんだ。自殺ってあんまり良くないんだね。私、知らなかったな。ありがとう」

「お役に立てたようで何よりです?」

「あはは、うん。お役に立ったよ。ありがとう」


 彼女は僕の言動が琴線に触れたようで未だに笑っている。


 数分後、やっと落ち着いたようで彼女は此方にまた視線を向けた。


「改めてありがとう.......そういえば、君ってなんていうんだい?まだ名前も聞いていなかった」

「僕の名前は柊柊です」

「私の名前は、久遠蒼依くどうあおい。知っているかもしれないけれど個々の生徒会長をしているんだ」


 生徒会長改め久遠先輩が此方に近づいてきて、手を差し出してきた。

 

 手を取ってもいいのだろうか、僕が。


 そんなことを考えていると生徒会長側からだらんと添えられるように僕の腰あたりにあった手を握った。


「これからよろしく、柊君」

「よろしくお願いします、久遠先輩」


 彼女がそこでニコリと笑った。


 .......今僕は彼女につられて笑うことができているのだろうかなんて頭の片隅で思ったが、次に彼女から出た言葉でそんなことは何処かへと消えて行った。


「ここから逃げて何処か遠くに行かない?」

「え?」


 僕はどんな顔をしていただろうか。

 



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