彼女さえも裏切って来たので、女性不信になりました。

かにくい

第1話 あと一年半の辛抱

 部活にも入っておらず、特に何かに精を出しているわけでもない僕は、学校を出て帰路に就いた。


 特に友達がいるわけでもない。僕と同じ年の子であればきっと放課後にカラオケに行こうとか、あそこの店の新作が出たから買いに行かない?とかそんな話が一つ、二つあってもいいだろうけれど僕は普通じゃなくて妹に比べて出来損ないで、家族の人にも、周りの人にもに迷惑をかけているようだ。


 知らないうちに僕が誰かに迷惑をかけている。僕は特に何もした記憶はない。だが、いつの間にか僕のせいになって、僕が悪者になっている。そんなことはざらだった。


 両親からの愛情が薄れて行ったのはいつだろうか?妹が生まれるまでは僕は父と母から愛情を受けていたと思うが、妹が生まれてからというものの両親からの愛情は段々と薄れていった。一歳差の僕と妹だが、差が顕著になっていったのは、妹が小学校に入ってからの事だった。


 妹は俗にいう天才というものだった。どこまで僕が努力したところで届くようなことはない。小学校の頃から彼女は何かしらのコンクールで受賞していたり、小学生が解けないような問題を解いていた。

 

 両親に少しでも認めてもらいたくて努力していた時期があった僕だったが、どうやら僕には難しかったみたいだ。学校の事でも迷惑をかけてしまうし、家族の人たちには申し訳ないなと常々思って生きている。


 中学校の時は、痴漢冤罪で迷惑をかけてしまったのだ。幸い、疑いは晴れたものの迷惑をかけたのには変わりないし、疑いが晴れていなかったときは、「お前なんてこの家に生まれなければよかったのに」と言わせてしまったし。


 さらに最近では.......、まぁいいかこの話は。もう彼女とはこの先関わることも無いし、お互いの為を思うなら思い出さない方がいいだろう。


 そんなどうでもいいことを考えていると家に着いた。玄関を開けて入れば愛華さんというお母さんがいた。


「お母さん、ただいま」

「お、おかえり、柊」


 こちらを窺うように見てくるお母さんと目を合わせて挨拶を返した。一時期は、僕にお母さんと言われるのも嫌だろうと思って名前で呼んでいたのだが、お母さんと呼んでほしいと言われたのでそのままだ。


 気を使わせてしまって本当に申し訳ないなって思う。


「ね、ねぇ柊?今日は一緒によるご飯食べましょう?ね?夜嘉もそれを望んでるし、それにお父さんも私だって柊がいてくれた方が楽しいわ」


 そう言ってくるお母さんだけれど、ダメですよ。お母さん。僕なんかに気を使ってはいけないと思います。それに、僕がいても空気を壊すだけでしょうし、気分を害してしまうでしょうから。


 それくらいは、妹に比べて馬鹿で迷惑ばかりかけている僕でもわかりますから。一応、家族の僕にも声をかけてくれているだけだって。大丈夫ですよ、しっかり断りますからそんな顔をしないで。


「お気遣いありがとうございます。大丈夫だよ、お母さん。三人で楽しく食べて。後で僕も食べるから」


 出来るだけ敬語にならないように、にこやかに返して靴を脱いで二階に上がる。家においてもらえているんだから、このくらいの気遣いはしなければいけない。


 でも、あと一年半もすれば僕もこの家から出ることができるので、お母さんたちからしてみればあと少しの辛抱だから我儘にはなるけれど、我慢してほしい。


 カバンを定位置において、特にする必要もない学校の課題をしてから、様々な資格の勉強を進めておく。僕は高校が終われば就職だから。


 出来るだけ資格の勉強をしておいて損はない。


 僕が通っている高校は進学校であるはずなのに就職する人は、ほんの一部だろう。教師からも何度か進路について聞かれたが僕に変える意思がないって分かるとどこか諦めた様子で僕の事を見つめていた。


 御免なさいという気持ちもあるが、それよりも家族に迷惑が掛かるので仕方がない。


 資格の勉強を黙々としているとお腹が鳴った。時計を見ればいつの間にか22時を過ぎていた。この時間になればもうお父さんやお母さん、妹の夜嘉はきっと各々の部屋に戻っているだろうから部屋から顔を出して様子を窺いながら階下へと降りる。


 リビングに行くとお母さんだけが残っているようで、お父さんと夜嘉はいなかった。


 お母さんが作ってくれていた料理を冷蔵庫から取り出して白米を茶碗に盛って手を合わせる。


 その様子を見ていたのか、恐る恐ると言った様子でお母さんが此方へと寄って来た。


 何か粗相をしてしまったのだろうか。


「しゅ、柊?前にも言ったけれど、おかず温めてもいいよ?」

「大丈夫です。電気代がもったいないから。少しでも減らせるところは減らした方がいいとおもいます.......思うよ。僕に使うお金がもったいない」


 そういうと、お母さんの顔がくしゃりと歪んで曇った。


 前にもこんなやり取りをしたことがあった。


 部屋の電気もつけずに月明かりでどうにか勉強をしていた時も、携帯代がもったいないからという理由で携帯を持とうとしなかったときも。あの時も、あの時も、あの時も。


 こんな顔をさせてしまっていた。


 だから僕は妹に比べて出来損ないなのだとそう改めて思う。親にこんな顔させるような息子が家族でいいはずがないんだ。僕の努力はいつもから回っていく。


 ごめんなさい。でもあとちょっと待っていてください。


 あと一年半の辛抱ですから。




 




 

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