第29話『エピローグ』
暖かな陽光が降り注ぐ草原に、黒いチェック柄のレジャーシートが敷かれている。
レジャーシートの上でリョウとニーナとメリルの三人は、バスケットに入ったサンドイッチを食べていた。
メニューは、リョウが作ったたっぷり野菜とチーズのサンドイッチ。
メリルが作ったローストした牛・豚・鳥が満載のサンドイッチ。
ニーナがリョウとメリルに手伝われながら作ったフルーツサンドイッチだ。
ニーナは、右手にリョウの作ったサンドイッチ、左手にメリルの作ったサンドイッチを持ち、交互に口に運んでいる。
「おいしいとおいしい。ダブルおいしい」
シャーロットとの決戦から一週間が経った。
ニーナは、あの時旧神化しかけたが、これといった副作用は出ていない。
メリルは、シャーロットが空間魔術を起動するもニーナとリョウに殺害されたとワイズ帝国に報告。ただし二人にメリルの正体はばれず、良好な関係を築けているので、しばらくは潜入を続け、機会を見て暗殺を実行するとした。
ワイズ帝国からは、紅の自己判断で臨機応変に対応せよ、との通達が来たという。
リョウは、正式にニーナを養子として迎え、メリルとの婚約関係も維持することとなった。ニーナは結婚してほしいと言ったが、ルギタニア政府に難色を示されたため見送った。
無理を通してルギタニア政府に目を付けられるよりは、表向き言うことを聞いているふりをしたほうがいい。三人で話し合ってそう結論付けた。
三人は家族になれたが、関係が崩壊する火種は無数にある。
バージス学院長やルギタニア政府は、魔術競技大会でのニーナの行動から一層監視を強めた。彼らのニーナに対する猜疑心は相当根強い。
ワイズ帝国もメリルが暗殺に時間をかけすぎていると判断すれば新たな刺客を送る可能性もある。
問題は山のようにあり、どれだけの期間、三人で家族としていられるか分からない。
だけど、この幸せな時間を少しでも長く続けたいと、リョウは心の底から願っていた。
「ニーナの作ったフルーツサンドが一番美味いな」
リョウは、イチゴのサンドイッチにかじりついた。イチゴの酸味のさわやかさと生クリームの甘味とまろやかさで見事な調和が取れている。
メリルは首肯しながらニーナの頭を撫でた。
「ええ。次があたしのサンドイッチね」
「馬鹿言うな。俺のだろ」
「相変わらず冗談がへたくそね」
「お前に言われたくねぇよ。肉女」
「もういっぺん言ってみなさい! あたしに負けたくせに!」
「こっちはアウェーで戦ってんだ! 有利な場所で戦っておいてよく自慢出来たもんだぜ! 何なら今ここでもう一度決着つけてやろうか!?」
「望むところよ! 銃を持ちなさい!!」
リョウとメリルの口論の白熱に、ニーナは笑顔になっていた。
「二人とも仲良し」
「どこがだ!?」
「どこがよ!?」
ニーナは、きょとんと首を傾げた。
「でもリョウとメリルいっしょにいるわ。仲直りしたからでしょ?」
そうであればいいが、生憎簡単に仲直りと行く間柄ではない。
リョウは、メリルの仲間を多く殺した。メリルも、リョウの生徒を多く殺した。簡単には許し合えない。だけどそれでもいい。それがリョウとメリルの出した結論だった。
「あたしとリョウは、お互いのことをどうしても許せない部分があるわ。でもいいのよ。家族だからってお互いのことを全部許せなくても」
「ああ。世間の家族なんてそんなもんだ。お互いのこと、許せないことがたくさんある。それでも家族やってていいんだよ。それに俺とメリルはニーナが大好きってところだけは意見が合うしな」
「それだけは否定出来ないわね」
ニーナは、口をむにゃむにゃさせてそっぽを向いてしまった。ストレートに好意を伝えるといつもこうなってしまう。
「ねぇリョウ、メリル」
ニーナは、自分の左胸に触れて俯いた。
「わたし、なんのために生まれたのかな」
リョウとメリルは、あえてニーナに全ての真実を話した。ニーナが今後の人生を送る上で知っておいたほうがいいと思ったからだ。
「わたしは、なんのために生まれてなんのために生きればいいのかしら?」
これからニーナは、自分の出生について何度も悩むだろう。背負うものの重さに耐えかねる時もあるかもしれない。だけど彼女が生まれた本当の意味をリョウは知っている。
「そんなの決まってる。俺たちと家族になるためだ」
リョウがニーナの頭をそっと撫でる。
「ええ。家族三人で美味しいものをいっぱい食べるためよ」
メリルがニーナの頬に優しく触れる。
「……こんな世界、滅ばずにもう少し続けばいいと思うわ」
ニーナは、花のような笑みを浮かべた。
おわり
アポカリプス・ドーター ~世界を救った英雄は、世界を滅ぼす少女と契約魔術で強制的に家族になる~ 澤松那函(なはこ) @nahakotaro
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