妖魔の宴

 大狼おおがみが救護室へと戻ってくると、狐塚きつねづか紅衣こういを呼び出したのか、吸血鬼の少女ソフィアは紅衣に抱きついている。


「何故、紅衣様が?」

「狐の神様に仕えているとソフィアちゃんに話したら興味を持ったので、紅衣様を呼んでみました」


 紅衣を読んだ事を軽く言う狐塚に大狼は固まっている。

 紅衣が笑いながら大狼に話しかけた。


「斗真よ。紅乃の事は気にしなくて良い。それより真神まかみお母様をアセナの呼んでくれないか?」

「真神様をですか?」

「妖魔の子なら真神お母様を呼んだ方が簡単に話が進む」

「そうかもしれませんが……」

此方こなたが責任を取る」

「承知致しました」


 紅衣にそこまで言われたら大狼としても真神を呼ぶしかないようで、大狼は真神を呼ぶための準備を始めた。

 準備が終わったところで、大狼が真神を呼び出す。

 呼び出された真神の姿は青い狼となっており、いつもよりは大きな姿で普通の狼と同じくらいの大きさになっている。


「斗真よ。変わった姿で呼び出したな」

「はい。実は吸血鬼の少女を保護しまして」

「ふむ」


 大狼がソフィアを紹介しようとするが、その前にソフィアは真神に抱きついた。ソフィアが真神から離れると、真神とソフィアは自己紹介をしている。

 ソフィアが真神の姿が両親が姿を変えた時にそっくりだと言って真神に甘えている。ソフィアは両親が恋しいようだ。

 ソフィアの発言に救護室に居た陰陽課の警察官たちの顔が引き攣る。

 姿を変えられる吸血鬼は高位の存在が多く、始祖か始祖に近い力を持った吸血鬼の可能性が高い。その事実を知っている警察官たちは顔を引き攣らせた訳だ。


「先輩、ソフィアちゃんどうします?」

「下手な場所には預けられんな」

「うちの実家か、先輩の実家ですかね?」

「真神様次第だな」


 ソフィアの親が異界から現れた場合に問題に先頭になる事を考えると、真神や紅衣のような高位の神が相手であれば被害を抑え込む事が可能だ。

 それにソフィアの見た目は子供だが、吸血鬼の子供であるのも事実であり、普通の人間と違って身体能力が高いだけではなく、高度な魔法が使える可能性がある。

 ソフィアが日本で過ごすための教育が必要になってくる。そういう意味でも真神や紅衣と一緒に住んで教えるのが最善である。

 陰陽課の警察官たちがどうするか迷っている間も、ソフィアは真神に抱きついたまま楽しそうに話をしている。

 狐塚がソフィアに両親と会うまでの間どこで過ごしたいかと尋ねると、ソフィアは真神に抱きついたまま狐塚に返事をした。


「私、お父様とお母様に会えるまで、真神と一緒にいたい」

「そうですか。真神様、どうされますか?」

「此方は構わん」


 選ばれなかった紅衣はソフィアに近づくと、妹みたいな物だとソフィアを再び可愛がり始めた。

 大狼と狐塚は書類を作るためにタブレットを持ってきて準備を始めた。

 書類が書き終わると、大狼が土御門に連絡をしてソフィアの移動許可はすぐに出た。


 阿史那神社へと移動したソフィアは一週間もすると随分となれた様子で、阿史那神社を遊びに来た紅衣と狐塚の三人で元気に走り回っている。

 ソフィアは日中に外に出ても平気な様子で、両親はやはりかなり高位な吸血鬼と予想された。

 ソフィアと紅衣が遊んでいるのは、魔女サマンサが阿史那神社を訪ねてきており、久しぶりの再会に真神とサマンサは話し込んでいる。

 大狼がお茶と茶菓子を持って真神とサマンサの元に来ると、サマンサが大狼に声をかける。


「斗真、リッチを呼びたいのでしたか?」

「はい。リッチはイスマールと名乗っていました」

「イスマールですか。知らない名前ですね」


 大狼が呼び出すのに必要な素材をサマンサに伝えると、サマンサは召喚の準備を始めた。

 サマンサは大狼が言うとおりに準備をして杖を掲げると、阿史那神社の境内で苦労することもなく、イスマールの召喚陣を作り上げ、召喚を成功させる。


「余に何ようだ?」

「大狼 斗真です。イスマール殿、私を覚えておられますか?」


 イスマールがサマンサから大狼に骸骨の顔を向けた。するとイスマールは深く頷いた。


「余が想像したより随分と早い召喚だったぞ」

「魔法の師匠に召喚をお願いしました」

「其方の師匠であれば納得だ」


 イスマールの姿は中島が召喚した時とは違ってしっかり召喚されており、イスマールはサマンサを褒めている。


「この姿なら帰らずに残っても良いな」

「あら。私のお手伝いをしてくれるなら居ても構いませんよ」

「ふむ。手伝いとは?」

「最近は薬作りですわ」


 イスマールがどのような薬を作っているのかサマンサに尋ねると、サマンサが一番売れているのが毛生え薬だと言うと、イスマールは骨を鳴らして笑った後に、自分も生きていた頃は髪がなくて悩んだと笑いながら喋っている。


「今の余は骨なので、毛がないのが普通であるがな。余は魔術師であり、錬金術師でもある。薬作りなら手伝えるぞ」

「錬金術師。それは期待できます」


 サマンサとイスマールが楽しそうに薬の話をした後に、大狼がソフィアの事をイスマールに伝えていく。大狼の話を聞いたイスマールは頷く。


「元気そうで良かった。両親については余の本体でも探しておく」

「イスマール殿、助かります」

「今、楽しみが増えたからな。気にするな」


 真神、サマンサ、イスマール、大狼は走り回っているソフィアたちを見ながらのんびりと話をしている。

 一週間の間に墓地に遺体は再び埋葬され直し、火葬される予定であった遺体に関しても火葬されて遺灰が埋葬された。身元が分からない遺体に関してはDNA鑑定の後に火葬されて埋葬される予定になっている。

 死者を蘇生しようとした中島については、特殊な拘置所で二十四時間体制で監視をされ、取り調べがまだ続いている。

 大狼が話せることだけを真神、サマンサ、イスマールに伝えると、三人は納得した様子だ。

 大狼の話が終わったところで、丁度ソフィアが真神に駆け寄ってきた。

 ソフィアにサマンサとイスマールを紹介した後に、ソフィアは皆に囲まれて幸せそうに笑っている。

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妖魔の宴 警視庁妖魔局陰陽課 Ruqu Shimosaka @RuquShimosaka

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