死者蘇生

 大狼おおがみが視線を容疑者から土御門つちみかどに移す。


「私が話してみても?」

「構わんぞ」


 大狼は土御門の返事を聞くと、部屋を出て取調室の扉をノックすると中から扉が開けられる。大狼が入室すると扉は再び閉じられて鍵がかけられる。

 取り調べをしている陰陽課の警察官に耳元で大狼が交代だと伝えると、警察官は立ち上がって大狼と椅子を交代する。

 大狼が対面に座っても容疑者は視線を上げない。

 大狼は声をかけることもなく、懐から写真を取り出す。写真は容疑者が居た家の寝室にあったものだ。

 写真を俯いている犯人に見えるように大狼が容疑者近くの机に置く。

 写真を見たであろう容疑者の反応は凄まじい物だった。容疑者は顔を上げて大狼を睨みつける。


「どこでこれを!」

「あなたが倒れていた家から持ってきました」

「勝手に!」


 容疑者は大狼を視線で殺そうとでもするように睨みつけている。容疑者はさらに体を動かして大狼に掴みかかろうとするが、陰陽課の警察官たちが事前に準備していた術が発動して動きを封じる。

 それでも容疑者は諦め切れないのか魔法を発動させようとしているのか、魔力を使い始めたところで、対抗魔法が発動して容疑者の魔法は不発に終わる。

 大狼は目の前で起きた攻防を見ても落ち着いた様子で、容疑者から視線を動かさない。


「リッチのイスマール殿から話は聞きました。死者の蘇生を望んでいたようですね」

「なっ」


 大狼の口からイスマールの名前が出て事に驚いたのだろう。容疑者は口を開けて驚いている。

 続けて大狼がイスマールを倒した事を話すと、容疑者の顔色が悪くなる。

 地下室のスケルトンを倒し、異界化を浄化した事を伝えると、容疑者が項垂れる。


「蘇生しようとしたのは写真の相手ですか?」

「そうだ」


 容疑者は一言肯定する言葉を言ったきり黙り込んでしまった。大狼が続きを促すように声をかけた。


「蘇生しようとした人とあなたの関係は?」

「妻だ」

「そうですか。では、あなたの名前は?」

「中島 翔」


 容疑者は項垂れたままに中島と名乗ると、大狼がマジックミラーになっている窓を一瞬確認した。中島は諦めたのか大狼の質問に答え始めた。

 大狼が出生を訪ねると、日本人とエジプト人のハーフだと中島が答えた。

 中島の見た目は日本人と言われれば違和感がない顔で、見ただけではハーフだとは分からない見た目をしている。

 更に大狼が質問を重ねていき、中島が素直に話していく。

 生まれは日本だがエジプトで育った事、エジプトから日本に渡ってきたのは随分と前である事、魔法を覚えたのはエジプトに居る時、警察の登録をしていない事を中島が答えて行った。


「葬儀屋や、墓地から遺体を盗んだのはあなたですか?」

「はい」

「あなたほどの魔法使いであれば、自らが盗みをする必要はなかったのでは?」

「調達していた組織が途中から受け渡しを拒否した」


 中島は遺体を調達していた組織に相当恨みがあるようで、苛立たしさを抑え切れないのか饒舌に喋り始めた。

 中島が使っていた組織は遺体の調達から魔法の開発まで請け負っており、中島は死者の蘇生をするために多額のお金や開発した魔法を対価として、遺体の調達だけではなく、吸血鬼やリッチを召喚するための魔法を買ったと言う。

 大狼がどのような魔法を売ったのかと尋ねると、中島は自分が得意とする魔法はデジタル機器に対する魔法だと語った。


「召喚や死者の蘇生は元々専門ではないんですか」

「現金や魔法の対価として教わっている」

「対価ですか。警察としては組織の名前をお聞きしたい」

「教えれば私自身を狙われる。どのような事をされるか分からない。無理だ」


 大狼は中島に断られた後に、中島が語った事を咀嚼するように黙る。

 少しすると大狼がマジックミラーを確認した後にイスマールから聞いた話を話し始めた。イスマールは生き返らせる死者の遺体がなければ、死者の蘇生は不可能だと言っていた事を大狼が中島に伝える。

 大狼は更に中島は組織に騙されていた可能性が高い事を話した。

 中島は言葉が出てこないようだが、絞り出すように声を出した。


「全てが嘘だったと?」

「遺体がない場合は、高位の神を呼ぶ必要があったのだと思います」

「私がやった事は真逆の事だったのか。良いように利用されただけなのか……」


 中島は再び項垂れるように頭を下げた。


「もう一度聞きます。組織の名前を教えてくれませんか?」


 中島は俯いたまま黙っていたが、顔を上げると大狼の顔を見る。

 大狼と中島の視線が合うと中島が口を開いた。


「秘密結社ドゥームズデイだ」

「ドゥームズデイ!」


 大狼は叫びながら椅子から立ち上がる。大狼や取調室で一緒に居た警察官までもが驚きの表情をしている。

 秘密結社ドゥームズデイは国際的なテロ組織として指定されている秘密結社で、非常に危険な魔法使いなどの術師が所属していると言われる。

 大狼とも関係がある組織で、ウィッチクラフト研究所で悪魔召喚をしたのは、所属を隠して入り込んだ秘密結社ドゥームズデイの魔女だ。


「どうやってドゥームズデイと連絡を取ったのですか?」

「ウェブサイトだ」

「ウェブサイト?」


 魔法をデジタル上に効力を発揮させる為には、デジタルでの技術を覚える必要があり、インターネット上にある普通の仕様書も読むが、アンダーグラウンドなサイトを探す場合があると、中島は語る。


「最近はそれでもサイトで魔法を教えている場所は減ったのだが、違和感のある位に魔法が豊富なサイトがあった」

「それは召喚魔法か?」

「ああ。召喚魔法が多かった」


 眉を顰めた大狼は、少し部屋を出ると言って立ち上がる。

 大狼は一度外に出て陰陽課に戻り、インプ事件の時に出たサイトを紙に印刷すると、再び取調室に戻ってきた。

 大狼は印刷した紙を中島の前に出す。中島が印刷された紙を確認すると目を見開いて驚いている。


「このサイトだ」

「日本語でサイトを作るとは、ドゥームズデイは日本でまた何かするつもりか?」


 大狼の呟きに、取調室や隣の部屋にいる術師たちの魔力や力が動き、部屋の中が緊張感に包まれる。

 大狼が中島にドゥームズデイについて聞くが、必要最低限のやり取りしかしていない上に、連絡の内容は残していないと中島が言う。中島が協力的に話し始めた事で、大狼は取り調べを交代して部屋を出た。

 大狼が部屋を出ると、部屋の外には土御門がおり、二人は取調室に声が届かない距離まで移動した。


「大狼、助かった」

「いえ。中島はどうするつもりです?」

「難しいな。何も喋らないままであれば、異界送りにしただろうが、今のところは協力的だ」


 術師を捕まえた場合は妖魔同様に扱いが難しい。術師は自身の体が強力な武器になる為、協力的でないと普通の刑務所に入れられないのだ。

 人間の術師は妖魔のように分体ではないので、捕まえた後に殺す事は法治国家として許されない。

 代わりに用意されたのが、異界に作られた刑務所のような場所に送り込むのだが、基本的に送ったら帰ってこれない。その為凶悪犯罪を犯さない限りは使われる事はない。


「ドゥームズデイについて、まだ聞きたい事は多い。暫くは陰陽課で見張るしかないな」

「そうですね」


 ドゥームズデイについて分かった事があれば大狼に伝えると、土御門は取調室へ戻って行った。

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