vs31 マリアの幼馴染み

 次の授業は音楽だった。

歌いたい者と、楽器を奏でたい者とに別れる。


以前はハープを弾いていたが…今度はフルートかピアノに挑戦してみたい。

そう思って楽器のある音楽室に入ろうとすると、そこにエデュアルトとマリアの姿があった。

 まるで、夫婦のように二人で立っている…。

合同練習だった事を思い出し、中に入らずに踵を返して引き返した。

心臓がバクバクとして、涙が滲む。

朝は歩いていたから平気だったのに、今ーーー断罪の時の光景がよぎったのだ。

〈…大丈夫…今は違う、しっかりするのよ〉

そう自分を奮い立たせていると、後ろから声を掛けられる。

「…大丈夫ですか…?」

振り向くと、可愛らしい女の子が心配そうに見ていた。

確か、よくソフィアと話していた子だ。

「ええ…少し寒気がして。もう大丈夫…わたくしはマリミエド・メイナード。貴女は?」

「あ、私は平民なんです。アメリア・ディラルカと申します」

そう言い、アメリアは頭を下げた。

「あの、本当に大丈夫ですか?」

「ええ…」

とは答えたものの、蒼白して俯いていた。

するとアメリアがそっと手を握ってくる。

「嫌だったら言って下さいね。…そこのガゼボの下のベンチへ行きましょう?」

そう言い、ガゼボの下まで手を引いていくと、共にベンチに座る。

「…微々たるものですが…」

そう言ってアメリアは癒やしの神聖力を使う。

心地良い力が流れてくる…。

「…貴女も聖女候補?」

「あ、はい、一応…。でも私の場合、マリアのオマケみたいな感じで」

アメリアは苦笑して言う。

「そんな事無いわ、貴女の力は優しいもの。きっと立派な聖女に…」

「いえ、聖女になんかなりたくないんです!」

「え…?」

「私、弟が二人いて…父さんが死んでからは母さんは女出一つでお針子で育ててくれて…だから、弟達が教会学校に入れるように養いたいんです! 不躾なお願いだとは分かっていますが…どうか、侍女として雇って頂けませんか⁈」

そうアメリアは必死に言ってきた。

〝教会学校〟とは、教会が有料で開いている学校の事で、数学や母国語などをきちんと学べる。

そして、国の様々な資格を得られる機会を与えられるのだ。

一般的に平民は基本だけ学べる教会に通う事が出来るが、文字の簡単な読み書きで終わるのだ。

マリミエドは昔から教会にボランティアで行っていたので、当然文字の読み書きも教えてきた経験がある。

教会学校で講師をした事もある。

教会学校は、平民の給料だと二〜三年分の学費が掛かる事も。

 一方の聖女になると、名誉や栄誉がほとんどで、お金は稼げない。

「…本気なの?」

「はい!」

アメリアは真剣だ…。

「わたくし一人では決められないの…お兄様に相談してみるわね」

「ありがとうございます‼」

「お礼は早いわ。貴女が何を出来るかによって、メイドの中でもお給金が変わってくるの。…貴族の家はメイドに厳しいわよ? 何か粗相を働いたら罰として鞭打ちもあるし、牢屋に入れられる事もあるわ。…その覚悟は、出来ていて?」

マリミエドも真剣に聞くと、アメリアはコクリと頷いた。

「勿論です。メイドが駄目なら娼婦になってでも稼ぐ覚悟はあります!」

「ーーー分かったわ」

お金の為なら何だってする。

その覚悟があるのならば、厳しいメイナード家でもやっていけるだろう。


 それから二人は、聖歌を習いに向かった。

その間、アメリアは過去を話してくれる。

マリアとは幼馴染みだった事。

昔からマリアは変わっていて王太子やイベントなどの事を話していた事…。


「あたしが大きくなって王妃になったら、あんたを雇ってあげるわ!」

「エディイベントでねー…」

などなど。

気になる話だったが、メイド面接の後で詳しく聞く事を約束した。

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天然公女は諦めない!〜悪役令嬢(天然)VS転生ヒロイン〜 @sasaoki_ryoka

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