【ふたり宅飲み】

いつも米田こめださんを待たせている気がするので、今日はかなり早めに待ち合わせ場所へ着いていた。

オムライスが美味しかった喫茶店。

また来たいと思っていた場所だ。


でも今日はここではなく、米田さんの家に行く。

手にはビニール袋と紙袋。

ビニールの方にはおつまみと食材、紙の方にはお酒。

可愛げないと思われたくなくてお酒は缶チューハイを選んだ。


こういう時に着ていくような可愛い服くらい買っておけよ自分。

新菜さんか美山さんに相談すべきだったかな。


昨夜もお酒を飲んだのに…飲み過ぎになるかもしれない。

水も買っておけばよかった。



などと、考えていると、向こうから見知った歩き方の人がこちらへ歩いてくる。

私に気がつくと歩くスピードを速めていた。


「ごめん待った?」


爽やかさで目が潤う。

米田さんのラフな格好は初めて見る。

白いTシャツにジーンズ、イケメンはシンプルな格好でも決まるから羨ましい。


かく言う私もジーンズに、ボーダーのタンクトップの上に白いシャツを着てきたので、なんだかペアルックみたいになってしまった。

(私の場合は着るものがないだけだが。)



以前米田さんが言っていたように、彼の家は喫茶店から歩いてすぐのところにあった。

5階建てマンションの2階の角部屋。

駅からも遠くないし、いい場所だな。


「どうぞ、狭いけど…。」

私も家に招いた時に同じことを言った気がする。

「お邪魔します。」

そして私も、彼が以前言っていたセリフを繰り返す。


米田さんの家は私の家と同じくらいの広さだったが、ソファやテレビがない分広く見える。

物はあまり多くない。


「飯島さんみたいにテレビなくて…タブレットはあるんだけど、何か観る?」

「ありがとう。何観ようかな…。」

「サブスクいろいろ入ってるから。普段はテレビどんなの観てる?」

「テレビはあんまり…バイクの充電旅のやつと、ドキュメンタリーばっかりかな。」

「うわ、懐かし。充電旅は実家いる時よく観てた。」


ガサガサと袋からものを出しながら喋っていると、米田さんもタブレットや冷蔵庫の麦茶を出してくれた。


「ちょっとキッチン借りてもいい?」

「うん、好きに使って。」



飲む時のおつまみは簡単に作れるものがいい。

今日はチューハイを持ってきたし、多少脂っこいものでも合うかも。


カニカマとチーズを春巻の皮で巻く。

フライパンに少ない油を敷き春巻を揚げていく。

しょわしょわと揚がっていく音が心地よい。

春巻は油から上げた後に少し色がつくため、全体が薄く色づいたらお皿に上げる。


切ったタコときゅうりをバジルソースでちゃっちゃと和える。

バジルソースは家に残ってたもの。

ボウルに垂らしたらちょうどよい量だった。


「うまそう。」

米田さんが後ろから覗き込んできたので驚いた。

ちょっと、近いですよ。


「これ運んでいい?」

「うん、お願いします。」


お皿を運んでいく米田さんの背中は大きくてなんだかソワソワしてしまう。


タブレットをスタンドにセット、おつまみとお酒を並べて、小さなテーブルはいっぱいになった。


「乾杯。」

お互いに持った缶を当てると、中の液体が震えるのがわかった。


ごっきゅと喉を鳴らしながらまずはビールを飲む米田さん。

私もとなりで桃のチューハイを飲む。

普段家で飲む時はなんとなくコップに移して飲むけど、缶のまま飲むのも特別な感じがして好きだ。


サブスクに以前観たいと思っていた映画があったのでそれを再生していた。

海外の有名なアクション映画だから米田さんも知ってるかも、と思っての選択。


「飯島さん忙しいのは落ち着いた?」

米田さんが口をもぐもぐ動かしながら聞いてきた。


「まあまあかな…最後6月末に有報出すから、それまではまだ少し忙しいかも。」

「またゆっくり会えそう?」

「休みの日なら。」

「よかった。」


照れたのか、こちらも見ずに米田さんは画面に見入っていた。

そして手も止めずに食べ進めていく。

いい食べっぷりの米大好きくん。


私もちびちび飲みながら映画を観る。

かっこいい俳優ばかりで目の保養になる、海外の映画はそういうことが多い。

以前はそんなにアクション映画は興味なかったけど、派手な爆破シーンとか危機一髪のシーンを見るとスッキリすることに気づいたのだ。


今回の映画も車が勢いよくぶつかり思い切り爆発してる。いいぞ。

気持ちよくなりもう一本チューハイの缶を開ける。


ちらりと米田さんの方を見る。


あれ?もしかして寝てる?


いつのまにか座椅子にもたれて眠る米田さん。

初めて寝顔を見てしまった。


映画、つまらなかったかな。

失敗したな…。

動画の音量を下げる。

少し残ったおつまみたちを食べながら今度はぶどうのチューハイを飲む。

果汁感強めのチューハイ大好き。

私が作ったおつまみは、米田さんが全て平らげていた。



食器を洗い終えた時にちょうど米田さんが目を覚ました。

少し戸惑ったような焦ったような様子だ。


「ごめ………俺、寝てた?」

「うん、1時間くらいだけど。」


いつの間にか外は雨が降っている。

今日は天気予報をちゃんと見てきたから傘は持ってきている。


「ごめんね、お疲れなのに。」

私はバッグを手にした。

「ゆっくり休んで。」

米田さんの顔を見ると、いつもの無表情に、少しの悲しみが混じっているようだった。



玄関へ立った時、後ろから米田さんに腕を掴まれる。

思いのほか力が強く、びっくりして振り返る。

それに気づいた彼はハッとした顔をして力を緩めた。腕は掴んだままだ。


「ごめん、言い訳だけど…昨日あまり眠れなかったんだ。今日が楽しみで。」


そう言うと、米田さんは私をぎこちなく抱きしめた。


「雨降ってるから、まだいなよ。」


息が、肩や首に当たってくすぐったい。

玄関のドアの向こうからはかすかに雨の音が聞こえている。


米田さんの服を掴むと、彼はぎゅっと私を抱いた。

そうかと思うとゆっくりと体を離して優しく私の腕を引いた。

薄暗い寝室に入るとベッドに私を座らせ、その前に跪く形で彼はしゃがみ、私を見つめ耳たぶを触ってきた。


「熱い。」

「…お酒、飲んだからだよ。」


私の胸に額を当てる彼。

心臓の音が伝わる距離で、私は動けずにいた。


「嫌だったら言って。」

「嫌じゃないよ。」


生温かい手の平の熱を服越しに感じた。

私は、彼の短い髪を優しく撫でた。



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