第34話 邪竜を倒せ!
あの竜を逃がせば、この世界の各地に被害が出るだろう。それは避けたい。俺だって、この世界を旅してきて愛着を持っているのだ。そんな世界を魔獣に荒らされたくはない。
魔法の書は落下した時にも手放さなかった。竜が逃げようとするなら追いかける。
「サモンドバリオス」
空間が歪み、そこから一頭の立派な馬が現れた。俺はその馬、バリオスに飛び乗った。
「バリオス。頼むぞ」
「ヒヒーン!」
俺の声に応えるようにバリオスがいなないた。前足が高く上がる。
黒竜は羽ばたき続け上昇する。最後までしがみつこうとしていたドワーフの兵も振り落とされた。グリフォン騎兵たちが攻撃するが、効いていない。
こちらまで突風が届く。危うく落馬しそうになったが、なんとかバリオスの体にしがみついた。黒竜が飛んでいく。だが、高度は低い。ハンバルグの町がある方へ向かっている。
「マリー、隊長とグリフォンを頼む。俺はあの黒竜を追う」
「ナオト!?」
マリーは驚いた様子だったが、すぐに頷いた。
「あなたが竜を追うというのなら――分かりました。わたくしも後からあなたを追います」
「ここは任せた!」
「気を付けて!」
俺はバリオスと共にエレベート山を駆け下りていく。竜を追うのは俺だけではなかった。
グリフォン騎兵隊も竜の後方を飛んでいる。彼らが居るなら心強い。
俺たちは竜を追っているうちに森の中へ突入する。森の中には障害物が多いがバリオスは賢い。適切なルートを選んで障害物を回避してくれる。
バリオスの脚は速く、空を飛ぶグリフォンたちにも負けていない。とりあえず黒竜に逃げ切られる心配はなさそうだ。そんなことを考えていた時。
黒竜が後ろを確認するように首を動かした。そして。
その巨大な体に異変が起きた。その体表から何体もの小さな飛竜が生み出されていく。なるほど、黒竜と共に現れた竜の群れはああして生まれていたのか。
飛竜の群れがグリフォン騎兵隊に襲いかかる。クソッ騎兵隊が足止めされた。ここから先は、黒竜を俺とバリオスで追うしかないか!?
一応、計画はある。さっき魔法で収納したオベリスクをカタパルトで発射する。それが黒竜に当たれば大きなダメージになるはずだ。当たれば、だが。
どんなに強力な攻撃も当たらなければ意味がない。そして、俺も黒竜も結構な速度で動いている。俺が射撃の名手であれば話は別だが、出来る限りにオベリスクの命中率が高い状況を作りたい。そのためには出来るだけ近づくんだ。
バリオスを走らせながら黒竜を観察する。再びその巨体に変化が起きる。体表から羽が無い中型の竜が生まれ、落ちてきた。さっきは俺が雪を落としたが、その仕返しのつもりかよ。
「バリオス! かわせ!」
「ヒヒン!」
落下する竜をかわし、黒竜の真下まで来た。だが、黒竜の腹部から次々と中型の竜が落ちて来る。
「バリオス! このまま巨竜を追い越すんだ!」
「ヒヒーン!」
バリオスが加速する、落ちて来る竜を避け、そして黒竜を追い越した。
黒竜は俺を見下ろし、火炎の息を吐いてきた。当たればただでは済まない。
「跳べ! 回避だー!」
「ヒーン!」
バリオスが跳躍する。火炎の息を回避したが、炎はそのまま俺たちを追ってくる。これで良い。作戦通りだ。
俺は魔法の書を開きながら呪文を唱える。
「ジャンプ!」
火炎の息が空を焼いた。その攻撃の直前に消えた俺たちは、黒竜の背中に出現する。背に乗ったぞ! 相手はまだ何が起こったのか気付いていない!
ゼロ距離射撃だ。避けられるものなら避けてみろ!
「カタパルト!」
呪文を唱えるのと同時に、巨大な柱が黒竜の体を貫いた。その一撃は巨大な背骨を砕き、黒竜へ特大のダメージを与える。巨体が森へと落下していく。ほどなくして、地響きを起こすほどの衝撃が発生した。
俺は――バリオスと共に跳躍していた。落下しながら、俺は黒竜に対しての最後の呪文を唱える。
「シール!」
黒竜の体からは今も新たに竜の群れが生まれようとしている。こいつはここで封印しなければならない!
光でできた無数の札が、空間の歪みから現れた。それらは黒竜の体に張り付いていく。黒竜は逃げようとするが、背骨を貫くオベリスクが逃亡を許さない。
バリオスが地面に着地した。俺は光の札に覆われていく黒竜の姿を見守る。巨大な体を無数の札が包み――まばゆく輝いた。後には巨大な柱だけが残されていた。
「勝った……よな?」
「ブルル!」
やっと安心できるか。と思ったのもつかの間、後ろから重い足音を響かせながら近づいてくる存在に気付いた。一体や二体ではない。何十……もしかしたら何百もの地を這う竜たちが、こちらに迫っていた。
「まじかよ……流石にあの数を俺だけで相手にするのは無理だぞ」
「ヒヒン」
ここは逃げるしかないか。そう思ってバリオスを走らせようとした時。
遠くから、何かがへし折れるような音がした。まだ、何か居るのか。そう考えて、どうするべきか迷ってしまう。そのうち、それは竜たちを虐殺しながら現れた。
「ウォン!」
竜たちを殺し、俺の前に現れたのは巨大化したクローバーだった。彼の背中にはマリーの姿もあった。
「追いつきましたわ! ナオト」
「助かった。あの中型竜たちをどうしようか考えてたんだ」
「それは、わたくしとクローバーに任せなさい」
「任せた」
マリーたちが残りの中型竜たちを殺していく。とりあえず、これでやっと安心できるだろうか。
そのうちグリフォン騎兵隊もやってきた。飛竜の群れはなんとかできたようだ。これで古代から蘇った邪悪な竜は完全に無力化されたはずだ。
一体のグリフォンが俺の元へとやってきた。その背にはドワーフたちの長、アルド王の姿があった。彼は満足そうに笑っていた。俺は急いで馬から降りようとしたが彼に「今は馬に乗ったままでも良い」と止められた。
「ナオト、大した活躍だったようだな。あの黒い竜はどうなった?」
「黒竜はオベリスクに貫かれ、それでも息があったので魔法を使い封印しました」
「そうか。封印はどの程度持つ?」
「分かりません。すぐに復活するかもしれませんし、何千年も封印されているかもしれません」
アルド王は「そうか」と言ってあごの下に手を当てた。彼は少しの間考え、うんと頷いて言った。
「では、オベリスクは回収し、ここに目印となるものを作っておこう。いつか邪竜が復活しても良いように」
これで一件落着だ。そう思っていた時、アルド王がとんでもないことを言った。
「今回、お前の働きは見事なものだった。なんでも欲しいものを言うがよい。大抵の願いは叶えてみせるぞ」
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