第23話 芋のチップス
俺たちはフレアを交えて宿の食堂で話し合っていた。
「そうだ。ナオトたちはアイスクリームとかいうものを売ってるんだって?」
フレアに尋ねられて俺は頷く。
「ああ、売っているよ。他にも酒とか塩を売ってる」
「村の人たちには大好評だったようだな」
「そうだね。好評だったと思える」
そう答えた俺に対しフレアは拝むように手を合わせた。
「そんなナオトに折り入って頼みがあるんだ」
「どんな頼み?」
俺は横のクローバーを撫でてやりながらフレアの返事を待つ。彼女は「確認なんだけど」と言って続ける。
「他にも何か美味いものを知っていたりするかい? 芋を使った料理とかがあれば、そのレシピを買いたい。うち、将来的には料理の店をやりたくてね。今は行商をしながら色々とレシピを集めてるんだ」
なるほど、レシピか。とはいえ俺は料理の専門家というわけではないからなあ。
「芋料理と限定されるとあまり案はないかもしれない」
「そうか……」
しゅんとする彼女が可愛そうに思えた。ここは何かを提案してやりたい。
「ちょっと待って。今、何かないか考えてるから」
「よろしく頼むぞ」
考えている間、フレアだけでなくマリーやノワの注目も集まっているのを感じた。そう注目が集まると緊張するなあ。
そうだな。ううん……あ……あれなら良いんじゃないか。
「芋のチップスはどうだろう?」
「チップス?」
フレアは不思議そうに言った。
「芋を薄く切って油で揚げたものだよ」
「それは……知らない料理だな」
知らないか。それは良かった。ここで、その料理は知っているよ、と答えられたら俺は凄く恥ずかしくなっていたはずだ。
マリーとノワを見ると二人も、その料理は知らないという反応だった。なら、フレアに教えるレシピはこれで決まりだな。そうとなれば。
「ちょっと宿の主人に交渉してみるよ。チップスを試作できないかどうか」
「うちはレシピを教えてもらえればよかったんだが、本当に良いのかい?」
「実際作ってみるところは見せたほうが良いだろ。とはいえ、厨房を使わせてもらえるかは交渉次第だが」
俺は早速席を立ち宿の主人の元へ向かった。そして料理の試作をしたいので厨房を貸してはもらえないかと頼んでみた。主人は「厨房を貸すのは良いが」と言ってから俺に条件を出してきた。
「俺にもその料理を試作するところを見せて欲しい。だって気になるだろ」
その提案のことでフレアに了承して良いか尋ねた。彼女が「構わない」と言ったので、俺はその条件で厨房を借りることにした。
厨房に俺とフレア、宿の主人とノワとで入った。クローバーは流石に厨房には入れないということでマリーと一緒に食堂で残ってもらった。
「食材は芋と……塩で良いか」
他には、そうだな。
宿の主人に必要な物がないか尋ねてみた。俺が言ったものは厨房にそろっていた。もし無かったらどうしようかと不安だったので助かる。
「では、芋のチップスを作っていこうと思う」
その場にいる者たちの注目が俺に集まる。気分は料理番組の先生だ。
「そんなに難しい料理じゃない。俺でも作り方を覚えてるくらいだ。というわけで始めていくぞ」
まずは芋を薄く、本当に薄く切っていく。
「ナオト。めっちゃ薄く切ってるが大丈夫なんだな。ぺらぺらだが大丈夫なんだよな?」
「これで良いんだ」
フレアは不安そうに俺がスライスした芋を見ている。
「スライスしたら、たっぷりの水に浸す」
容器の水が白っぽくなるたびに水を取り換えてやる。それを三回ほど繰り返した。
次は水に浸していた芋のスライスから水気をとってやる。今回は厨房にあったタオルを使わせてもらった。
「これでだいたい半分の工程が終わったかな」
「もう!?」
ノワが驚き、不安そうな顔をした。これで本当にまともな料理になるのかと疑っているみたいだ。
「まあ見てなって」
作り方はこれであっているはずなんだ。
油を熱し、充分に水気をとった芋を数枚ずつ油に入れていく。
「芋から泡が出てこなくなって薄く色が付いたらオーケーだ」
揚がった芋を網に乗せ、油を切る。
「これでほとんど完成だな」
芋のスライスを全て揚げ、それらを皿に盛った。最後は芋が温かい内に塩をかけてやれば完成だ。
厨房の火を消した。油の処理にも気をつけよう。
「さあ、食べてみてくれ」
俺はフレアたちにチップスを進める。フレアは恐る恐るといった様子でチップスを口に運んだ。そして。
「ん-!」
彼女の口元が綻んだ。どうやら美味しくできたようだな。
「なんだろう新触感!? サクサクしてる! これは酒と一緒に欲しくなるな!」
「ああ、酒か。それは良いな」
フレアが美味しそうにしているのを見て宿の主人とノワもチップスを一口食べた。二人とも嬉しそうな顔をする。
「これは良い! うちの食事にも出してみるか!」
「ナオトさま。この料理、私たちのギルドで扱っても良いですか!?」
主人もノワも目が本気だ。ちょっと怖い。
「それは、フレアに相談してくれ。俺はこのレシピを彼女に売るからな」
俺がそう言うと二人のターゲットが俺からフレアに移るのが分かった。チップスをどう扱うかは三人に任せて俺はマリーへこの料理を運ぼう。クローバーは……油ものも大丈夫だったよな。
マリーとクローバーからもチップスの反応は良かった。その後、神にレシピを書いて、フレアに売った。彼女はこの村の宿や商人ギルドがチップスを販売することを認めたようだ。
フレアは俺の元に来て嬉しそうに笑って言う。
「ナオト。ありがとう。新しいレシピが増えたよ」
「喜んでもらえたようでなによりだ」
……ふう。村まで夜通し歩いてきて、露店を開いて、料理を作った。後片付けもした。流石に疲れたな。
そろそろ部屋で休みたい。俺は部屋で休んでいるとマリーたちに言って、部屋のベッドで夕方まで眠るのだった。
その日の夕食が芋のチップスになることは想像に難しくなかった。もしかしたら、これから毎日のように同じ料理が出てくるようになるかもしれない。
食堂で俺たちはフレアも交えて食事と談笑を楽しんだ。そして翌朝。
フィッシュアンドチップスの朝食を済ませ、俺たちはさらに南へ向かう。宿を離れる時、フレアは俺たちを見送ってくれた。
「ナオト、またそのうち会いたいぞ!」
「なら、そのうち会おう。またな」
「またな!」
フレアはマリーやノワたちにも「また」と言って、マリーやノワも「また」と返した。
クローバーの「ウォー!」と吠える声が朝の村に響いた。
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