第17話 ギルドマスターからの依頼
「ドワーフの王に柱を?」
商人ギルドのマスターがわざわざ頼んできたのだ。それは面倒なことか、もしくは大変なことだろう。あるいはその両方かもしれない。
「ええ、ドワーフの王へ柱を届けてほしいのです」
リリウムはリラックスして話を続ける。
「あなたが並べてくれたアイスクリーム。一つ頂いても良いですか?」
「もちろんです。どうぞ」
俺はアイスの筒を一つリリウムに差し出す。彼女は筒の中身を紅茶用のスプーンですくった。
「いただきます」
そう言って彼女がアイスを一口。
「ん、これは良いですね。冷たくて甘い。南方のドラーベ王国では特に需要があると思います。あちらはエレベート山などを除けば、温かい土地ですからね」
今そう思ったというよりは、俺が彼女にアイスクリームを見せた時からそう考えていたのではないかと思えた。
「ナオトさま。ドラーベ王国へ向かうべきです。そして」
ここからが本番という雰囲気が伝わる。彼女は俺の目をしっかりと見て言う。
「私が先に話した柱も、ドラーベ王国へ届けてほしいのです」
「なるほど」
アイスクリームを売るついでに柱を運んでほしいということか。冷たいものを売るのなら温かい場所が良いと思っていたし、収納魔法を使えば鉄塊を運ぶことはできる。悪くない話かもしれない。
「私の依頼を受けてもらえたなら、私はあなたが必要なものを、さらに用意できます。私の依頼を受けてもらえますか?」
逡巡する。一瞬マリーを見た。彼女はリラックスした様子だった。視線をリリウムに戻し、決めた。
「……分かりました。その依頼を受けましょう」
「そう言ってくれると思っていましたよ」
リリウムはにこりと笑った。
彼女は手元のアイスをちらりと見て言う。
「クリームが溶け始めていますね。そちらの筒は収納したほうが良いのでは?」
それはそうだ。俺はテーブルに並べた筒に注目する。
「アドミト」
並べた筒を同時に収納した。この魔法を使うのも慣れたものだ。視線を上げると、リリウムの視線は俺が持つ魔法の書に注目していた。
「面白そうな魔導書ですね。非常に興味深い」
「……これは売りませんよ」
俺にとって魔法の書は切り札だ。この異世界を渡り歩くうえで手放すわけにはいかない。
リリウムはアイスクリームをスプーンですくいながら、落ち着いた様子で言う。
「ええ、それはあなたにとって非常に大切な物でしょう。売ってくれとは言いません。私は今、あなたと仲良くなりたいと考えているのです。リリウムと友達になりましょう?」
友達……ね。彼女から俺への第一印象は良いものではなかったからな。どこまでが本気で言っているのやら。まあ、商売を助けてもらう相手を邪険にするわけにもいかない。
「……そうですね。友達になりましょう」
それから、続きの話はリリウムがアイスクリームを食べ終わった後でのことになった。彼女は表情こそ変化が乏しかったが、それを気に入っているように感じた。
「さて、ナオトさま。あなたに柱を運んでもらいたいとは言いましたが、その柱について詳しく話していませんでしたね」
「ええ、詳しい話を聞かせてもらえますか?」
リリウムは頷く。そして彼女は説明を始める。
「エルパルスから南へ一日ほど進んだ場所にシールディアという町があって、そこに巨大な金属の柱……我々はオベリスクと呼んでいる物があります。今はパルス王国の町にありますが元々はドラーベ王国のドワーフたちのものです」
「ドラーベ王国の……オベリスク?」
オベリスクといえば古代エジプトのモニュメントだろう。昔、世界史の授業でエジプトと戦ったローマ帝国がオベリスクを戦利品として略奪していったという話は聞いたことがある。
今、リリウムからの話に出てきたオベリスクは元々ドワーフたちのものだったという。この世界でもオベリスクを戦利品として持ち帰ったとか、そういう歴史ありそうだなあ。
「オベリスクがシールディアに置かれることになった経緯を詳しく話すとドラーベ王国とパルス王国の戦史を語ることになり、非常に長くなるので、省略させてもらいますね」
「なんとなく何があったか予想はできます」
「そうですか。まあ……はるか昔にとても大きな戦争があり、パルスの民がドワーフたちからオベリスクを奪った過去があり、今のドワーフたちはその返還を求めている。その点を理解してもらえれば充分かと思います」
「理解しました。俺はそのオベリスクをドラーベ王国の王へ届ければ良いんですね?」
「そうです」
リリウムは両手の指を合わせて眉を寄せる。何か気に障ることを言ってしまったか?
「気になるのは、今更になってドワーフたちがオベリスクの返還を求めているということです」
どういうことだろうか? 俺は彼女の言葉を待つ。
「さっきも言いましたがパルスの民がドワーフたちからオベリスクを奪ったのは、はるか昔のことです。歴史書の中でも特に古い時代の出来事なのです。最近になるまでドワーフたちはオベリスクの返還など求めなかった。それはなぜか。あなたも気になりませんか?」
気になるかと言われると。
「……気にはなりますね」
「そうでしょう。私も気になっているのです。ナオトさま、ドラーベ王国へオベリスクを返しに行くのなら、それとなくドワーフたちがあの柱を求めている理由を探ってみてもらえませんか。出来ればで良いのです」
む、面倒ごとを一つ増やされたな。だが乗りかかった舟だ……良いだろう。
「出来るだけのことはしてみましょう」
「ええ、そうしてもらえると助かります。その代わり、我々はあなたの商売を出来る限りサポートさせてもらいます」
リリウムは言葉を続ける。
「ナオトさまにオベリスクを運ぶ仕事を頼むことになりますが、私のほうで必要な手続きはやっておきます。手続きに数日かかりますので、その間はこの街でお待ちください」
数日か。なら、その間に頼みたいことがある。
「ギルドのほうで、アイスクリームの材料と塩を頼むことはできますか? それと、できれば冷やした酒も売りたい。多めに用意してもらえると助かる」
向こうから色々要求されているのだ。こっちからも色々要求してやる。
リリウムは頷く。
「もちろんです。それに商売のアドバイザーとしてうちの職員を一人つけましょう。彼女は優秀ですから、ぜひ、あなた達の旅に同行させてやってください。可愛い子ですよ」
旅の同行者……ん、何か引っかかるような? 何だろう……まあいいか。アドバイザーという話だが実際のところはドワーフたちにとって大切なオベリスクを運ばせるわけだし、裏を読むべきだろう。アドバイザーというのは建前で俺に監視の人間をつけたいのだと思う。ま、いいさ。
「ええ、助かります。それでは、よろしくお願いします」
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