第10話 観光と魔法集め

 少し悩んだが、今日はエルパルスの街にある古代の遺跡を見て回ることにした。魔法を覚えてできることを増やしたうえで、どのような商品を扱うか考えるのが良いのではないかと思ったのだ。


「では、決まりですわ。まずは街の南側にあるグラヌス競技場とエルパルス王城を観に行きましょう」

「ウォン」


 マリーとクローバーに促されて俺は宿を後にする。横を歩くマリーに俺はいくつか質問する。


「競技場っていうのは円盤投げみたいなスポーツとか……さっき言ってた戦車競技とかもやっていたりするのかい?」

「競技場でやっているのは人間のスポーツ大会だけですわ。戦車競技が行われているのは競馬場ですの」

「競馬場があるのかい!?」

「何をそんなに驚いていますの? もしや馬という生物をご存じで無い?」

「いや、馬は知ってるが……」


 競馬場というものがファンタジー世界にあるのはいまいち想像しにくいんだよな。


「良いですか。馬という生物は我々の生活には欠かすことができません。荷運びに使われますし、早い脚にもなります。そんな生物の品定めをするための場所は絶対に必要になるでしょう? 競馬場は馬の競り市を兼ねていますの」

「言われてみれば確かに」


 もしかしたら俺の想像する競馬場とは少し違った施設なのかもしれない。そして、それはこの世界の人々にとって必要だから存在するのだ。


「その競馬場も古代からあったりする?」

「そう言われていますわ」

「ちなみに古代遺跡って全部でどれくらいあるの?」

「ええと……そうですわね……」


 マリーは手の指を折りながら話していく。


「魔導書は反応しなかったようですが街の城壁も古代からあるものですわ。それ以外なら……先程の広場と、これから行く王城、競技場、競馬場。くらいですわね。片手の指で数えられる程度ですのね」

「他には無いの?」

「今はありません。他にあった古代遺跡は火災や建て替えなどで消滅したはずですわ」

「それは、ちょっと寂しいな……」

「そうですわね。ですが、形あるものはいつか無くなるものですの。エルフでさえね……」


 彼女の言葉に寂しいものを感じた。が、すぐに彼女は明るい顔をして言う。


「まあ、気持ちを切り替えていきましょう。今はナオトが新しい魔法を使えるようにするのが目標、やるべきことですわ」

「そうだな」

「ウォン!」


 クローバーもそうだそうだと言っている。気がする。今は魔法の書に新たな魔法を増やすことを考えよう。


 しばらく街を南に進み、到着した【グラヌス競技場】はコロッセオのような建物だった。


「とても大きいな」

「競技場の名前にもあるグラヌスは戦の神の名前ですわ。この国では二番人気の神様ですけれど、北のグラン帝国では熱心に進行されています。かの国にはグラヌスと同じ名前の街が存在しますわ」

「へえ、二番人気の神様ってことは、ここで信じられているのは唯一神じゃないんだな」

「主神の存在は信じられていますが、それ以外にも商売の神や工業の神、魔法の神に旅の神なんてものも信じられています。詳しく知りたいなら、説明しましょうか?」

「いや、さわりくらいで充分だよ」


 俺の返事に対し、マリーは残念そうな表情をしていた。


 あまり宗教に興味はない。とはいえ、この地で信じられている宗教とはギリシャの神話のようなイメージで考えたら良いのだろうか。あれも確かゼウスという神が居て、他に色々な神がいるのだ。ん……宗教と神話って別ものか? 分からん。


 鞄から魔法の書を取り出し競技場の側へ寄っていくと、それに変化が起きた。本が光り、ページに新たな呪文『カタパルト』が追加されたのだ。これは……言葉の感じからして何かを射出するような感じだろうか。


「新たな呪文が増えたようですわね」

「ちょっと危なそうなやつが増えた。あくまで予想だけど」

「そうなのですか。それは、街の外で試したほうが良さそうですわね」

「できれば今日中に魔法を集めて明日は魔法の効果を検証したい」

「ならば急ぎましょうか」


 競技場の見学もそこそこに俺たちは【エルパルス王城】へ向かう。城は白い石壁と白い屋根の美しい建物だった。城の中までは入れなかったためか、城壁のように魔法を覚えられる場所ではないのか、どちらかは分からないが俺の本に新たな呪文が加わることはなかった。


 その後は街の東へ。【ミケ競馬場】へ到着してすぐに本が光った。ページを確認してみると呪文が増えていた。新たな呪文は『サモンドバリオス』というもの。サモンという文字がとても気になった。


 サモン……召喚? 


「……これは、ひょっとすると召喚魔法なのか?」


 召喚の魔法だとして、それは空間魔法とは別カテゴリじゃないだろうか? 違う空間に居る存在を呼び出すなら空間魔法のカテゴリに入るのか?


「召喚魔法ですって!?」


 俺の言葉にマリーが大きく反応した。彼女は興奮しているように見える。


「それはぜひとも検証したいですわね!」

「なんかめちゃくちゃ反応良くない?」


 マリーは一度胸に手を当てて深呼吸した。彼女は一度落ち着いてから話し出す。


「それはもう、召喚魔法だなんて聞いたら、驚きもしますわ。良いですかナオト。召喚の魔法は現在では失われた魔法の一つです。少なくとも、魔法学園で教えられるような形としては残っていません」

「じゃあ、とても貴重な魔法なんだな」

「それが本当に召喚魔法だとすれば、とてつもなくレアな魔法ですのよ。いえ、その本が見せてくれた魔法はどれもこれも特別な魔法ばかりでしたが」

「なら、ぜひとも明日、城壁の外で試してみよう」


 明日やるべきことがはっきりした。が、今日はまだ時間がある。急ぎ足で古代の遺跡を回ったから、時間が出来てしまったのだ。


「ここから宿に帰るまでの道でも観光していけるところはありますわ。のんびりと観光をしながら宿に戻るというのはどうでしょう?」

「それは良いな。そうしよう」


 マリーの提案でエルパルスの街を観光しながら帰る。【アルマ図書館】という大陸で一番の蔵書を誇る図書館や【ドラーベ工房】という活気のある鍛冶屋などを見ていく。観光をしているうちに日が暮れ、俺たちが泊る宿、平原亭に戻ってきた。


 夕食をとり、その後は風呂に入ってから、明日に備えて部屋で寝ることにした。


 今日は色々な魔法を集めた。名前の感じからして、たぶんこういう魔法なのではないかという予想はできるが、あくまで予想でしかない。何が起こるかわからない以上、できるだけ人の少ないところで試してみよう。


 わくわくする。明日は早く起きよう。

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