第8話 芋売りの少女
山を超え、平原に降りた。パルス王国の首都『エルパルス』まではもう少しだ。
夕日に照らされた平原をのんびり進んでいると、そのうち辺りは耕地に変わる。
「あれは麦かい?」
耕地を指さしながらマリーに尋ねると彼女は頷く。
「ええ、麦畑を見るのは珍しいかしら? こちらの世界ではありふれたものですけど」
「稲田は見たことあるけどね。あ、稲って分かる?」
彼女は再び頷く。お、稲を知っているのか。
「イース島やメソ大陸では育てられているそうですわね。こちらの大陸でも最近、実験的に育てられているとか。米、というんでしたか。わたくしは食べたことはありませんが、美味しいらしいですね」
米がこっちの世界でも食べられるっていうことが知れて、ちょっと嬉しい。日本人としては米を食べたいからね。
「米は美味いよ」
「ふむぅ。ナオトの居た場所はイース島と似ているのかもしれませんね」
「そのイース島ってところについて聞かせてもらっても良いかい?」
「もちろん構いませんわ。エルパルスに到着するまで、もう少し歩きますしね。それまでわたくしが聞いたイース島についてお教えしましょう」
それから、しばらくマリーはイース島という場所について教えてくれた。話を聞いていると、どうも江戸時代の日本に似ているように思えた。
「いつか行ってみたいな。そのイース島ってとこに」
「なら、わたくしも一緒に行こうかしら」
「そうだな。その時はよろしく頼むよ」
「楽しみにしていますわ」
彼女は楽しそうに笑った。とりあえず、彼女に旅の案内を頼んでいるのは一週間だが、その先も、彼女さえよければ案内をお願いしたい。今はそう思える。彼女とクローバーが居れば野盗に遭遇しても安心だしね。
そんな話をしているうちにエルパルスの城門に到着した。日はすっかり沈み、城門は閉じられている。どうも朝まで開かないらしい。日中しか城門が開いていないことは覚えておこう。
城門の前にはいくつかのテントがあった。そのうちのひとつにクローバーが興味を示す。
「ウォン! ウォン!」
「どうしたクローバー」
「美味しそうな匂いがしますわね」
確かにテントから美味しそうな匂いがしている。とはいえ、お邪魔するのはよくないだろう。と、思っているとテントから食器を持った少女が出てきた。彼女と目が合う。彼女は温和な笑みを浮かべた。彼女が持つ皿の上にはサンドイッチが並んでいる。
「どうだい、あんたら。うちの作った料理、買っていかないか。美味しいポテトサンドだ」
パンに挟まれたマッシュポテトは……ジャガイモっぽいがなんか色味が違う気もする。実はジャガイモではないのかもしれない。美味しそうな匂いだが、どうするかな。
「いくらするんだ?」
「ひとつ二百ガルドでどうだい?」
二百ガルド、だいたい二百円くらいか。サンドイッチからはコショウっぽい匂いもするな。クローバーを見る。犬に調味料を使ったものは食べさせない方が良いとは聞くが。
マリーを見る。
「クローバーって調味料とかは駄目だったりする?」
「彼は普通の犬とは違いますの。ですから大丈夫でしてよ。わたくしもクローバーも彼女の料理に興味がありますわ」
「じゃあ、いただくとするか。ここは俺がまとめて払うよ」
「それは嬉しいですわね」
「ウォン」
俺は硬貨の入った袋を取り出し、テントの少女に言う。
「サンドイッチ、買わせてくれ」
「まいどあり!」
お金を渡し、彼女からサンドイッチを受け取る。なかなか美味そうだ。マリーとクローバーに一つずつ渡し、それから俺の分を受け取った。
「食べ終わったら、うちの商品も見に来ると良いぜ。まあ、ほとんどは芋だが」
「分かった。後で見に来るよ」
そんなやり取りをしていると、こちらに興味を持ったのか旅人たちが彼女の元へ集まってきた。
「サンドイッチ、売ってんのかい?」
「俺にも売ってくれ」
「腹が減ってるんだ。いくらだね?」
彼女は楽しそうに旅人たちに応えていく。
「よし! 順番に相手していくからな! 並んでくれよ」
俺たちは彼女たちから少し離れたところで夕食にする。
サンドイッチは美味しかった。舌がピリリとして、調味料がよく効いている。コショウ以外にも何か使ってるな。
そのうち夕食は終わり、芋売りの少女に会いに行く。丁度、今の彼女は暇しているようだった。
「美味しかったよ。ごちそうさま」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。うちも料理を作ったかいがあるってもんだ。懐も潤うし良いことづくめだね」
彼女のテントに入れてもらう。マリーたちと一緒に入るとテントは狭い。
「うちは旅先で料理とか、他にも、その時々で色々な物を売ってるからさ。気になるものがあったら売るぜ」
「今は芋を売ってるんだったかな?」
「おう、買ってくかい?」
「いくつか売ってほしい」
試したいことがあるからね。いくつかの芋を購入して彼女のテントを離れた。
その後、俺たちもテントを張って、寝床を確保する。マリーは俺にテントをちゃんと張れるか聞いてきたが大丈夫だ。これでもキャンプの経験がある。
俺の知っているテントと勝手は違ったものの、なんとかそれを張り終えた。このテントはタムリア村の雑貨屋で買った物だが、なかなか立派だ。これなら、しっかり雨風を防いでくれるだろう。
「慣れたものですわね」
「ま、一応こういう経験はあるからな」
「ふぅん」
マリーは俺のテントを見ながら感心しているようだった。
「さて、夜はまだ長いのです。テントによっては商売をしている方も居るようですし、見て回ってみませんか?」
彼女の提案には賛成だ。
「ああ、色々見て回ろう」
その後、キャンプ地の商人たちが出している商品を見て回る。
商人たちの品物を見て回るのは楽しかった。色々と、彼らの商品にはそれぞれの特徴があるようだ。どこから来たかによって、持ってきた物も変わってくるのだろう。
そうしてブラブラしていると、さっきの少女と出会った。彼女も色々とテントを見て回っているようだ。
「どうも」
「おう、さっきぶり」
「何か面白いものはあったかい?」
「んー買おうって程の物はなかったかな。あんたらも何か売っていたりするかい?」
「俺は……」
言いかけて、思い出す。
「武器や防具、あとは魔石があるよ」
それは野盗たちから奪った物。売れるならここで売ってしまおう。
「うちは武器や防具はいらないかな。でもそういうのに興味ありそうな旅人も居たから、あんたのこと宣伝しとくよ」
「それは助かる。俺はあっちの……あのテントに居るから」
「分かった。じゃあな。商売がうまくいくことを祈ってるよ」
俺たちはテントに戻って商売をしてみることにした。魔法で収納していた武器や防具を取り出して待つ。少しすると俺のテントへ人がやって来た。
「ここで武器や防具を売っていると聞いたんだが」
「ああ、色々あるよ。見て言ってくれ」
やって来た人の中には武器商人も居て、野盗たちから奪った武器や防具の数々は結構な額で売れた。タムリア村の宿でなら二ヶ月は暮らせる額だ。交渉次第ではもしかすると、もう少しお金をとれたかもしれない。とはいえ、質の悪そうなものばかりだったし。あんなものかもしれない。
城門の前で過ごす夜は楽しく過ぎていく。翌朝、俺たちはエルパルスの街へ入った。
――――
あとがき
パルス王国の首都エルパルスに到着です!
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