第84話 証拠
「カレーを食べられなくした原因を作ったから、お前は木梨さんを襲ったのか? 殴って、めちゃくちゃに顔を潰して……」
「だって、むかついたんだもん」
颯太はぺろりと舌を出した。
吐き気がこみあげてくる。圭太は唾を呑みこんだ。酸っぱい匂いが鼻を通り、ますます気持ち悪くなる。
「やっぱり、これは真実だったんだな」
圭太は片手でポケットを探り、折りたたんだ紙を取り出した。颯太に向けて放ると、また後ろ手に戻る。
拾い上げ、颯太は紙に書かれた絵を見た。
「あ、ライ吉だあ」
「ライ吉って……それライオンだったのか?」
圭太は床に投げ出されたままの颯太の通学鞄を顎でしゃくった。鞄の肩ひもには、颯太が手作りしたマスコット人形が付けられている。隆平にプレゼントしたのと同じものだ。圭太にはそれが犬か猫のように見えていたが、ライ吉という名前から連想するに、颯太はこれをライオンとして作ったらしい。
「襲われたとき、木梨さんは犯人の持ち物を見ていたんだ。それを絵に描いておいて、祥吾に見せた。犯人の鞄に付いていたっていう人形の絵だよ。お前が作ったやつに似てるだろ。この絵を見てから、祥吾はお前が犯人じゃないかと疑いはじめたらしいよ。祥吾もお前の作った人形を受け取ってるからな」
「へえ、すごい絵が上手なんだね、木梨先輩。ライ吉そっくりに描けてるー」
呑気に言って、颯太は絵を放り投げた。
「北中の奴を襲ったのは、駅であいつがお前のことを気持ち悪いと言ったからか?」
「あ、それもわかってるんだ?」
「木梨さんが襲われる前に、似たような事件があったって聞いた。狭い地域で立て続けに似たような事件が起きれば、同一犯の仕業と考えるのが普通だろう。隆平の母親に、木梨さん、被害者は二人とも俺に多少の関りがある人だった。それじゃあ、もうひとりの被害者もそうなんじゃないかと考えたんだ。被害に遭ったのは北中の三年男子。それでピンときたんだよ。駅で俺に絡んできたあいつじゃないかって」
「そうだよ。そういえば兄ちゃんあいつに殴られたんだよね? 兄ちゃんだってむかついたでしょ?」
「あいつを襲ったときに、お前顔見られてると思うぞ」
「へえ、そうなんだ」
颯太は動じない。
「さっき、北中まで行ってきたんだ。校門の前で張ってたら、あいつが出てきた。あいつ、俺の顔を見た途端すげえ怯えて逃げていったよ。正確には、俺の顔にお前の面影を見て、怯えたんだろうけど」
「あいつさあ、僕に殴られて縛り付けられて、びいびい泣いてたんだよ。すごい情けなかった」
「ひどい目に遭わされて、お前の顔だって見てるのに、あいつはそのことを警察には言ってないみたいだな」
もしも警察に颯太の特徴を話していたら、今ここで呑気に漫画など読んでいられないはずだ。
「ああ、ねえ? どうしてだろう。あいつの恥ずかしい動画を撮っておいたからかなあ。流出したら、あいつこそ一生周りに気持ち悪いって言われ続けるようなやつ」
颯太は得意げに微笑んだ。
「それにしても、本当に兄ちゃん色々と調べてきたんだねえ。そんなに僕、怪しかった?」
圭太は静かに首を振った。
「言っただろう。俺は颯太が犯人だと疑いなくなかった。だから調べたんだ。颯太を信じられる証拠を見つけるために」
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