第78話 真相
突き放すように、祥吾は言った。
「諦めよう。俺の呪いは発動した。今さら呪いを解こうとしたって意味がない」
「そんな……だって、呪いは一度では終わらないよ」
圭太は祥吾を説得しようとした。ここで祥吾に下りられて困る。どうかもう一度、一緒に呪いを解く方法を探してほしい。自分を導いてほしい。
「きっと何度だって呪いは降りかかるんだよ。現に、隆平は二度目だ。母親が通り魔に襲われたのが一度目、二度目では歯を全部奪われた。祥吾だって、また呪いのせいで体に異変が起きるかもしれない。そうなる前に呪いを解かないと――」
「呪いはひとり一度だ」
圭太の言葉をさえぎり、祥吾は断言した。
「隆平が二度呪いを受けているなんて、勘違いなんだよ」
「え……?」
「全身に発疹を発生させたり、突然脚の感覚や視力を奪ったり、呪いは人知を超えた力だ。隆平の母親が襲われたのは呪いじゃない。あれは人間がやったものだ」
「そんな……」
圭太は今度こそ膝から崩れ落ちた。
呪いが何度も降りかかるのなら、対象は自分を含めた五人のうちの誰かだ。誰にでも可能性があると思えば、まだ冷静でいられた。しかし呪いが一度だけと考えた場合、次に受けるのはもう自分か望のどちらかしかいない。
今度こそ、自分の番かもしれない。
想像しただけで目の前が暗くなった。圭太は恐怖に喘いだ。
すると、祥吾が意外なことを口にした。
「圭太は、まだ自分の呪いは発動していないと思っている?」
祥吾は続けて尋ねた。
「まだ何も奪われていないとでも、思ってるわけ?」
へ? と圭太は間抜けな声をもらした。
「圭太も本当は、薄々勘づいているんじゃないの?」
祥吾は部屋の隅に置かれた通学鞄を開けてみるよう、圭太に言った。
「中に一枚、枠線のないレポート用紙が入ってる。たぶん二つ折りにしたと思う。探してみて」
中を探ると、確かに言われたものが入っていた。
「これ何?」
「あゆみが描いた絵。美術部の活動サボってばかりだったくせに、あいつなかなか絵がうまいんだ」
レポート用紙を広げ、描かれた絵を見ると、圭太はひゅっと喉を縮めた。
「夏休み前から、あゆみ不登校になってただろう」
「ああ、そういえば……」
「あゆみ、夜道で突然後ろから殴られたんだ。それで学校に来られなくなった。目がこんなことになる前、俺はあゆみの見舞いに行った。ひどかった。顔とか、面影がなくなるくらい潰されてた。犯人はたぶん、隆平の母親を襲った奴と同一だろうって話だ。こんな狭い地域に何人も通り魔が現れるなんて考えにくいしな。調べたらあゆみの前にも、北中の三年の男子が襲われていた」
あゆみは犯人の姿を見たんだ、と祥吾は続けた。
「顔まではわからなかったけど、犯人の持ち物は見えたからって、絵に描いてくれた。その絵がそうだ」
圭太は両手に力をこめた。ぐしゃりとレポート用紙に皺が寄り、描かれた絵が歪む。
「いい加減知らないふりするのはやめろよ、圭太。いつまでも逃げてるなよ」
祥吾が言った。
「覚悟を決めろよ」
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