第13話 きつすぎ
■ ■ ■
「俺たちはあの日、バケモノに呪いをかけられた」
急に寒けを覚え、圭太は両腕を抱いた。日は落ちて、辺りは暗い。しかしこの寒さは、夜のせいだけではない気がした。
「確か――お前たちに呪いをかけた。お前たちから必ず奪ってやるからな。……だったよな?」
圭太は言う。
四年前のあの日、隆平を助けようと、まずは明充が薮の中に飛びこんだ。遅れて圭太と祥吾も後を追った。藪を抜けた先で、隆平はひとり泣きじゃくっていた。バケモノは姿を消していた。
恐怖で小便を漏らしていた隆平に、明充はTシャツを脱いで渡してやった。明充のTシャツを腰に巻き付けた後で、隆平はバケモノの言葉を伝えたのだった。
その後は颯太と合流して、視影を出た。望と哲朗は橋の傍で、圭太たちが戻るのを待っていた。弁解しようする二人を、明充は問答無用で殴りつけた。そして全員無言のまま解散した。
後日、颯太のいないところで、望と哲朗にもバケモノの言葉を伝えた。
圭太はしばらくの間怯えて過ごした。
呪われた。奪われる。
具体的に何を奪うつもりでいるのかまで、バケモノは言わなかった。だからこそ恐ろしかった。
「だけど結局あれから、俺たちは何も奪われたりなんかしなかった。だよな?」
「それで今まで、呪いなんてものはないと結論づけてきた」
祥吾がうなずく。
「バケモノの言葉は、ただの脅しだったんだ」
「で、でも……」
隆平が声を振るわせる。
「じゃあなんで今になってバケモノは僕の前に姿を現したの? やっぱりあのとき呪いはかけられていたんだよ。それでもうすぐ呪いが発動するだ。間違いない、バケモノが姿を見せたのは、呪いが発動する前触れなんだよ」
「ちょっと、整理しようか」
隆平を落ち着かせるためか、祥吾は穏やかに問いかけた。
「バケモノは、どういう状況で隆平の前に現れたの?」
「どういうって……特には。気がつくと僕の前にいる」
「襲ってきたりは?」
圭太も尋ねた。
「ううん、何もしてこない。ただ、いるんだ。ぼろぼろの服を着ていて、顔の横には長い髪が垂れてて……」
「その口ぶりだと、バケモノはもう何度も隆平の前に現れている?」
「うん。最初に姿を見たのは春休みの終わりくらいだった。その日から、一日に何度か現れるようになった。毎回気がつくと目の前にいて、瞬きをした瞬間に消える。幽霊みたいに消えたり現れたりするんだ」
「それはかなりきついな」
圭太はまだ、バケモノの詳細を覚えている。あのおぞましい姿は、四年が経とうとしている今も忘れられなかった。一日に何度もバケモノを目にする生活など、想像しただけで怖気が走る。
「きついなんてもんじゃないよ!」
突然隆平の口調が荒っぽくなった。隆平がここまで苛立ちを露わにするなど、相当追いこまれている。
祥吾が確認にする。
「隆平がずっと学校を休んでいるのは、それが理由だったんだね」
「そ、そうだよ。あいつの姿は僕以外の人には見えていない。突然目の前にバケモノが現れたら、いくら構えていても咄嗟に叫び声が出ちゃうし、他人からはそんな僕の姿が挙動不審に映るだろう。こんな状態で学校になんか行けないよ。絶対に変な奴だと思われる。それに今、母さんと色々こじれちゃっているから、そういう意味でも登校できないでいるんだ。母さんは――」
突然、隆平が言葉を切った。
「隆平? どうした?」
やや間があって、
「ごめん。近くで車の音がする。父さんが帰って来たみたい。この電話、元の場所に戻しておかないと」
「それじゃあ……」
祥吾は手短に、今後の連絡の取り方について提案する。
「わかった。ありがとう」
慌ただしく言い、隆平は通話を切った。
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