第9話 四年前(六)
間もなく、穴から哲朗が飛び出て来た。わけのわからないこと叫んでいる。哲朗は友人の姿など目に入らぬ様子で、林の中へと姿を消した。間髪入れずに今度は望が転がり出て来て、哲朗と同じように一目散に駆けていく。
「……何があったんだろう」
圭太は唖然としてつぶやいた。
「わからないけど、なんか変だ」
祥吾が硬い声で言う。
詳しい状況はつかめないが、先程の二人の様子から、穴の奥で異常事態が起きたのだろうと想像できた。
「あ、明充は? まだあの中にいるの? どうして出て来ないの?」
隆平は早くも涙目になっている。
「一体なんなのこの穴……」
「明充を連れて来よう」
祥吾が言い、一歩踏み出した。
「危なくないの?」
圭太は咄嗟に腕を伸ばし、祥吾を引き止めた。望と哲朗の悲鳴が、耳の奥に残っている。
「平気だよ。きっと穴の中に動物でもいたんだよ。それで望たちはびっくりして逃げていったんだ」
祥吾の声は冷静だったが、なんとなく強がっているようにも聞こえた。
「そ、そうだよな」
圭太は祥吾の意見を信じることにした。この状況下で、自分で考え決断するのが怖かった。
「あいつらがビビりすぎなだけだよな」
自分も一緒に明充を連れに行く。圭太が宣言すると、隆平は怯えた目で穴倉を一瞥し、顔を伏せた。
「ぼ、僕は……」
「いいよ。隆平は先に神社戻ってて。颯太の様子も気になるし」
「あ、うん。ありがとう……」
ちらちらとこちらを気にしつつ、隆平は来た道を戻っていく。
圭太と祥吾は、穴の奥へと足を踏み入れた。すぐに視界は暗くなり、何も見えなくなった。壁伝いに歩く。やがて平坦だった足元に、でこぼこが感じられるようになった。空気は淀み、わずかに息苦しさを覚える。
前方に、小さな明かりが見えた。
「望の携帯だ。落としてったんだ」
拾い上げ、圭太は周囲を照らしてみた。自分たちのいる場所をよく観察する。天井と壁に、木材やロープで補強されたような跡が見えた。
「明充ー? おーい!」
声を張り上げ、先を進む。明かりが手に入ったので、いくらか歩きやすくなった。
繰り返し呼びかけても、明充からの応答はない。
とうとう壁に当たった。行き止まりかと思ったが、よく見ると道は右に折れて続いている。
折れた先に、明充が座りこんでいた。
「ああ、いたいた」
祥吾が明充に駆け寄る。
明充はひどく怯えた様子だった。
「何があったの? 大丈夫?」
祥吾の問いかけにも答えず、明充は震える指で前方を示した。
急いで明かりを向ける。瞬間、全身が粟立った。
何か、いる――。
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