第7話 四年前(四)

「よっしゃ、お宝探そうぜ」

 哲朗が両肩を回す。


「おお」

 明充が動いた。その後に望が続く。二人はすぐ傍の廃屋を覗きに走った。一方、哲朗は少し離れた場所で、ひとり地面を探りはじめた。


 宝探しに熱中する三人を見ながら、圭太の中にはためらいが生まれていた。

 いくら家主がいないとはいえ、侵入して中を漁るなんて――。

 しかし明充の目があるので、ここで何もしないわけにいかない。圭太は適当に瓦礫を動かし、宝を探すふりをした。どんなものがお宝かなんてわからない。お宝というワードに心躍らない。

 祥吾や隆平も同じ考えらしく、おざなりに探索をしている。颯太は集落に入った頃から、圭太の傍を離れない。手を動かしもせず、ただびくびくと周囲を窺っている。

 そうやって「宝探し」を続けるうち、一行は集落の奥深いところまで足を踏み入れていた。


 少し風が湿ってきたな。圭太は探索の手を止める。


 望が「あっ」と声を上げた。

「石段がある。すっげえ長い!」


 二等辺三角形の頂角にあたる部分が、小高い山になっていた。望が見つけたのは、山中へ入るための石段だった。崩れているところもあるが、上れなくはないだろう。


 明充と哲朗が顔を見合わせ、にやりと笑う。

「なんかもう宝探しとかやる気なくなってきたし、誰が一番にこの石段を上りきれるか競争して、帰ろうぜ」


 圭太はほっと胸を撫で下ろした。これでやっと家に帰れる。

 隣で、颯太も安堵の表情を浮かべていた。


 石段の手前で、全員が横並びになった。明充のかけ声で、一斉に石段を駆け上る。スタート直後はほとんど差がなかったが、すぐに明充が先頭に躍り出た。その後に哲朗、祥吾、圭太と続く。


 石段を上りきった先は、神社になっていた。


「わあ、なんか雰囲気あるところだね……」

 ビリでゴールした隆平は、息を弾ませながら言い、地面に尻をつけた。


 順位を確認し合ったところで、

「俺、ちょっと小便」

「あ、俺も」

 哲朗と望が揃って藪の中へと姿を消した。


 ただ待っているのも暇なので、圭太と颯太、祥吾、明充の四人は、狭い境内を見て回ることにした。隆平も誘ったが、疲れたので座っていたいという。


 まず目についたのは、朽ち果てた手水舎と瓦の飛んだ社だった。社の裏手に回ると、簡素な造りの建物を見つけた。傍には劣化した雨戸が落ちていた。割れた窓ガラスの向こう、建物の中は畳敷きになっているようだ。以前は集会所の役割をしていたのだろうか。


 境内の探索はすぐに終わり、四人は隆平の元へ戻った。隆平はさっきと同じ体勢で座りこんでいた。冗談みたいに大量の汗を滴らせ、真っ赤な顔をしている。息遣いもまだ荒い。


「大丈夫?」

 祥吾が問いかけると、

「平気。でも喉乾いたな。水筒持ってくれば良かったよ」

 隆平は手の甲で汗を拭った。


「望と哲朗は?」

「まだ来てないよ」


 それからだいぶ待ったが、二人が戻って来る気配はなかった。


「どうしたんだろうね」

 颯太が首をかしげる。


「しょうがねえな。俺、ちょっと探してくるわ」

 明充が動きかけたとき、二人が藪から飛び出てきた。

 何やら興奮しきった様子で、まくし立てる。


「向こうで変なもの見つけた!」

「あれ、絶対やばいやつだ!」

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