第4話 四年前(一)
八月後半の昼下がり。
夏休みはじめの高揚した空気は消え失せ、暇を持て余した面々がなんとなく公園に集合していた。
「なあ、いい加減何かしようぜ」
痺れを切らして言ったのは、金子明充だった。
明充は体と声が大きく、少々荒っぽい性格から、クラスで一番の発言力を持っている。
集まってから十数分が経過していたが、無意味に自転車を乗り回してみたり、石を投げてみたりするばかりで、まだ誰からも具体的な遊びの案が出ていなかった。
「じゃあさ、暑いからマルヨシでも行く?」
須田望が、近くのスーパーの名を挙げた。二階のゲームコーナーは、定番の遊びスポットだ。寂れているので、あまり熱中できるゲームは置いてないが、冷房が利いているぶん公園よりは過ごしやすい。
「いいね」
と言う隆平の声と、
「俺、金ないし」
明充の不満そうな声が重なった。
隆平は気まずそうに口を閉じる。
「あ、じゃあ祥吾んちに行くのは? だめ?」
すぐさま望は別の案を上げた。祥吾に目で合図を送る。
「いいよ」
祥吾はあっさりと答えた。
「え? 本当にいいの?」
咄嗟に、圭太は口を挟んだ。
「一昨日も祥吾んちだったのに。親、怒んない?」
「別に。むしろお母さんは喜んでるよ。俺があんまりお母さんの作ったおやつ食べないからさ」
祥吾はそう言って、肩をすくめてみせた。
祥吾の母親は菓子作りが趣味らしく、圭太たちが遊びに行くたび、ずっしりと重いチョコレートケーキや、クリームたっぷりのタルトなどを出してくれる。
「えー、勿体ないなあ。僕が祥吾くんちの子だったら、毎日おやつおかわりしちゃうよ」
颯太が唇を尖らせながら言った。
圭太の一つ下の弟、颯太は、同じ学年の友達とは遊ばず、圭太たちの輪に入りたがる。泣き虫で体も小さいので、何かと甘やかしてくれる兄たちといるほうが安心するのだろう。
この日も、半ば強引に圭太にくっついて、公園まで来ていた。
「祥吾んち行くんでいいかな?」
望は念のためといった調子で、明充に了解をとった。自他ともに認める一番の子分だけあって、望は明充の機嫌を読むのに長けている。
「ん、いいんじゃん?」
口調は素っ気ないものの、表情を見る限り、明充は乗り気だった。
一同は祥吾の家に向かうため、公園を出た。
その直後、向こうからやって来た鹿沼哲朗に声をかけられた。
「なあ、おまえら暇してるならさ、これから視影に行ってみねえ?」
「視影?」
「はあ? 何言ってんだよ、哲朗」
明充と望が、冷たく返した。
哲朗は一つ上の学年だが、身長は四年生の颯太よりも低い。目が細く、前歯が突き出ているため、どことなくずる賢いネズミを連想させる顔立ちをしてた。同学年の中では浮いた存在らしく、たびたび自分より下の学年の輪に混ざりたがった。
圭太たちはそんな哲朗を心の中で馬鹿にし、憐れむような態度で接していた。だが哲朗本人は何も勘づいていないのか、あくまで自分を面倒見のいい兄貴分的存在と位置づけている。
「視影なんて行って、どうするんだよ」
明充が呆れ顔で問う。
哲朗は、わかってないなという表情を浮かべた。
「どうするって、決まってるだろう。宝探しだよ」
「宝探し?」
「視影に残ってる家の中とかさ、探検するんだよ。この前、バスの中で中学生が噂してるの聞いたんだ。あそこには昔住んでた人たちの家財道具が残されたままになってるらしいんだよ。中には珍しいおもちゃとか、売ればそこそこの値段がつくものとかあるらしい」
そう言って、哲朗は胸を張った。
「な? お宝だろ?」
「うわっ、嘘臭ぇ」
明充がしかめ面を作り、
「そういう噂、信じるほうが馬鹿じゃん」
と望が指摘する。
「じゃあ、行かないんだ?」
「行くわけねえだろ。俺ら今から祥吾んち行くとこだし」
「もしかして明充、視影に入るのが怖い?」
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