異動してきた美少女が○○だった〜俺の父親赦さない〜

@dadada00000

第1話昇給の「欲望」は消えるのか?追いかけられても消えないのか。

代わり映えのない毎日、同僚から馬鹿にされる毎日、上司から咎められる毎日。

俺はそんな毎日を打破したい。だが、生きているだけで精一杯な俺は何も出来なかった。

誰か、俺の側にいて欲しい。そんな願いさえも…叶わなかった…。

今俺に出来ることは、ただ朝起きて電車に乗って会社に行って昇給を目指すことしか出来なかった。

そんな毎日にもう終止符を打ちたいが、世間体が俺の欲望を掻き消す。そして「欲望」を世間体のものにするしかなかった…。

今の俺の「欲望」は昇給すること。それしか「世界」から赦されなかった。

この物語の主人公、山田太郎は今日も現実に向き合って五時起きだ。

社会人二年目、もうアラームをかけなくとも目が自然と覚めるようになった。それでもなお、顔を洗う余力や歯を磨く余力はないようだ。

とりあえず机にあった昨日の夕飯の残りである牛丼を腹に入れる。山田太郎の一日の始まりだ。

「牛丼うめー」

山田太郎は会社に行きたくない気持ちもあるが、いつか「メシア」のような女の子が現れると信じている。

牛丼をかき込んだ後、シワのあるスーツに着替えて鞄を持ってアパートを出た。

昨日の夜酒を呑みすぎた山田太郎だが、アパートにしては頑丈なトイレに全部出して無かったことにしたようだ。

いつも通り山田太郎は駅の改札を抜けて仕事のマニュアルのチェックをしている。

「メシア」のような女性がいようとも、昇給をする為に完全無視である。

「そういえば今日異動してくる人がいるな…」

山田太郎は「メシア」のような女性が来てくれることを願った。

だが、昇給する為に出来る限り雑念は棄てたい山田太郎の気持ちは変わらなかった。

会社に着くと、いきなり見知らぬ人に山田太郎は話しかけられた。会社のフロントでの出来事だ。

腰まである黒髪、ぱっちりとした目、薄い唇…。どこからどう見ても完璧に美しく、可憐だ。それに加えて聡明そうで仕事も出来そう。

「こんにちは…その社員証は株式会社ワンの方ですよね?」

「そうですけど…」

「わたくし、今日から異動します、蓮寺未華子と申します。」

山田太郎は彼女は高校時代に一回しか出来たことがない。しかも蓮寺未華子のような「メシア」みたいな女性ではなかったので、山田太郎の脳内は昇給の事を忘れた。

昇給なんてどうでもいい。これからこの女性(ひと)の為に会社に来るんだ。そんなようなことさえも一新させられた。

だがそれはものの十秒ほどで、すぐに昇給の文字が山田太郎の脳内に焼き付けられた。

「よろしくお願いいたします。」

そして報連相しか交わさなくていいや、と決意した。

「はい、これからよろしくお願いいたします。」

蓮寺未華子は何かを隠し持っている。富豪そうな装いから判断できるのは父親か母親が偉大ということ。

しかしながら…、両親から大切に育てられた訳ではなかった。教養をしっかり身に付けられたにも関わらず、「ある事」を期待されていた…。

そんな「ある事」が蓮寺未華子には重荷になっていて、会社で無意識に恋をすることによって解放されていた。

山田太郎は仕事も出来るし、そこまで外見も悪くないので蓮寺未華子は山田太郎に依存することとなる。

その依存が山田太郎にとって吉と出るか凶と出るかは神のみぞ知る。



「ここ、やってもらえる?」

「はい」

蓮寺未華子は入社二日目にしてマニュアルを覚えたようだ。

天才。ジーニアス。だが、蓮寺未華子は「欠点」を持っていた。恋愛的に。

昼も野菜ジュースしか飲まないのである。これが欠点ではない。

蓮寺未華子がいた休憩室に山田太郎が入室した。

「凄いね。蓮寺さん。」

山田太郎も蓮寺未華子の天才さに感心していた。千ページ近くあるマニュアルを二日で覚えたのだから。

「いえ。これくらい簡単です。」

表情も変わらない。山田太郎は無意識のうちに情が湧いた。

そしてその「無意識」を自覚するのはいつだろうか。それは時間が解決するのであり、更に別の意味で「意識」することとなる。

とても綺麗で可憐なその容姿が昇給の「欲望」よりも優先されている。昇給が山田太郎の「欲望」であることには変わりないのだが。

「いや凄いよ!教えて欲しいくらいだ。」

そう、まだ山田太郎は勤続年数二年でもマニュアルを丸暗記していないのだ。しかも、マニュアルは日々変わる。

「視れば良いのです。」

淡々と髪を耳に掛けながら口から発した。何かを隠しているのだろうか。蓮寺未華子は山田太郎の目を一瞬見た。

最初に話し掛けた時も、異動してきた後も、一度も目を見たことがない。だが一瞬ではあるが、今初めて目を見た。

山田太郎は普通の女性(ひと)ではないとわかっていたが、今の出来事で完全に察知した。

この人は何かを隠している。

俺に何か用がある。それも特別な用。そして、人生が変わる出来事を起こすような、凄い何かが。



定時。いつも通り山田太郎は仕事を上がってエレベーターに乗ろうとすると、後ろから早歩きで一緒のエレベーターに乗り込む者がいた。

山田太郎がエレベーターに乗って身体を回転させると、一緒に乗り込んで来た者が誰か判明した。

蓮寺未華子だ。

「お疲れ様です。」

蓮寺未華子が山田太郎の隣に立ち、会釈して言った。

「お疲れ様です。」

山田太郎は少し驚きながらも平静を装って言った。

そして蓮寺未華子は髪をかき上げながら、

「あの…わたくしの家でマニュアルの覚え方を伝授いたしましょうか?」

とエレベーターが一階に到着したことを確認して開けるボタンを押しながら話した。

マニュアルの覚え方を教えてくれるのならば、行くしかない。と山田太郎は思った。

だが、いきなり家に行っていいものなのかとも思ったが、昇給が近くなるチャンスだという結論に至り、目を輝かせながら、

「お願いします!」

と言った。

「では、一緒の電車に乗りましょうか。」

山田太郎は蓮寺未華子についていくと、いつもと違う路線を利用することとなった。

その駅が山田太郎の視界に入ると、更に胸が高揚した。

ーーーその時、二人の後ろから何か気配がして山田太郎はヒヤリとした。

そう。とてつもない感覚で咄嗟に蓮寺未華子を全身を使って庇った。

そして山田太郎の背中に何者かが切り傷を付けた。

蓮寺未華子は眼を見開きながら呆然と立ち尽くした。

山田太郎は顔を顰めながら後ろを振り返った。

「痛え…」

大量のヒトだ。ーーーヒト?いやヒトじゃない何か。そう思った。

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