最終話 ハーレムエンドは存在しない
「待たしちゃってごめーん」
パタパタと駆け寄る。
時計を見れば待ち合わせの時間から10分。
「大丈夫だよ」
「ほんとにごめん。電車一本乗り遅れちゃって」
やって来たのは、黒髪ストレートを腰まで伸ばした、透明感のある彼女だ。
そう!
彼女だ!恋人だ。
名前は
高校を卒業し、無事に大学に入った僕にも遂に彼女ができたのだ!
しかも美人だ。性格は可愛い。
何より声がいい。
聞き取りやすく、優しく響く甘く艷やかな声。
事実、駆け寄る彼女を目でチラチラ追い掛ける野郎共がたくさんいる。
残念!僕の彼女でしたー。
「どこ行こっか?」
優越感と幸福感に包まれて、僕は……あ、間違えた、僕達はデートに繰り出した。
☆☆☆
今日のデートは映画だ。
映画にはよく行く。
映画といってもアニメが殆どだけど。
というのも、彼女は――ああっと、ちょっと他人行儀だったね――キキは声優志望だから。
遊びの時間でも勉強を忘れない真面目で美人で、スタイルのいい彼女だ。
だから映画館じゃなくても、僕の家でアニメを観ることもあるし、キキの家でアニメを観ることもある。
まあ、キキの美声と美貌と抜群のスタイルがあれば、今すぐにでも声優として大成してしまいそうだけれど、僕のキキが衆目に晒されることになると思うと、個人的には複雑な感情もあるんだけれど。
僕達が出会ったのもがアニメがきっかけだった。
たまたま講義で席が隣になったとき、キキがうっかり鞄から『チョロインしかいない世界で、俺のスキルは【豪槍無敗】でした』のBDを落としてしまったのを、僕がさも自分の持ち物だったかのようにフォローしたのが始まりだったから。
我ながら神がかり的なフォローあったのではないかと思う。
まあそのせいで友達の
「ひぐっ……うぐっ……」
「ハンカチ使う?」
「ありがと…ひぐっ」
そんなキキは映画を見終わって号泣していた。
可愛い。
キキしか泣いてないから、物凄い見られてるけど。
しかも、映画館の中の男女比率が99:1ぐらいで男しかいないから余計と目立つ。
「これは神作だったわ……」
感受性が豊かなキキの評点はものすごく甘い。
チョコバナナをぜんざいにつけてはちみつと一緒に食べるぐらい甘い。
ちなみに今日見たのは、昨年、アニメ放送されて人気だった『ボクの幼馴染が寝取られ勇者のガチ恋勢だと僕だけが知らないと思ってるのは寝取られ勇者の義妹だけ』の劇場版だ。
タイトルから推測される通りドタバタご都合主義ラブコメなんだけど、キキにかかれば、号泣必至の神作になる。
個人的には当代一のロリ系妹キャラ声優・朝霧ユリの演じる勇者の義妹・エスカがとても心に残る作品だった。
フィギュアが出るまでにバイトしとかないと。
おそらく『裸じゃないわよ!泡がついてるじゃない!ver.』が発売されるはずだ。
あの名シーンは必ずフィギュア化される。
いや、されるべきだ。
されなければおかしい。
「ん?どうしたの?」
「え?ん?何でもないよ?」
思わず拳を握りしめていたらしい。
ハハハと極自然に、手を緩め、そのまま極さりげなくキキの手を握る。
「ふふ」
嬉しそうに笑うキキ。
おい、この可愛い人、僕の彼女なんだぜ?見てるか?お前ら?
世界中に自慢したい気分だ。
☆☆☆
「オカエリサイ」
家に帰ると、にこにこしたジェレスカ義母さんが迎えてくれる。
「お邪魔します」
キキも一緒だ。
『僕に彼女が出来た』と聞いたその時は、凄まじい勢いで『スグニツレテキナサーイ』と大騒ぎになっていた義母さんだけど、キキの誠実な人柄とか、人懐っこい性格とか、まああと単純に美人だし、とかで今ではすっかり認めてくれている。
リリアにレイミ、萌乃と冷佳も最初はやたら冷たく当たっていたけれど、今となっては親友と呼べるほどに仲がいい。
流石、キキだ。
僕としても、僕の家族や友人たちと仲良くしてもらえることはとても嬉しい。
「タベオワッタラ、オフロハイッテクルノガbetterデース」
談笑しながらの食事は終わり、デザートも食べ終えたところでジェレスカ義母さんが風呂を勧めてくる。
「あ、お、そうだね」
「へへ、一緒に行こうか」
少し照れながらキキが笑う。
そう。
もはやキキは公認の嫁とも言えるのだ。
実家で一緒に風呂に入る関係。
もう家族と言っても差し支えないだろう。
ヌルヌルした風呂でヌメヌメしながら入る風呂と違い常識的な風呂。
しかし、キキは脱がなくても可愛いけれど、脱いでも凄いのだ。
流石にリリア義姉さんほどではないが、全体的に柔らかそうな案外、もっちり感がある。
「まだ、ダメだよ?」
ビーストと化しそうな僕をほんのりと退けるキキ。
「お部屋でね」
そう言って笑うキキは暴力的に可愛かった。
☆☆☆
さて、何不自由のないキキとのイチャイチャ恋愛生活なのだが、たった一つ、不満というか、疑問というか、ちょっと困ることがある。
普通にしてる分には困ることではないのだけれど、時々、その困ったが顔を出すのだ。
「スミ~、いらっしゃ~い」
風呂から上がって部屋に入ると、そこには大学生になった幼馴染がいた。
高校生から大学生にジョブチェンジした萌乃は、以前より雰囲気が大人びている。
「うぇ!? え!? 今日!?」
思わずキキを振り返る。
「さっき呼ばれた」
冷静な声は冷佳。
見事に大学受験に失敗し、近くの文房具メーカーでまさかの営業職についた冷佳は、その、つい頷いてしまう色気と迫力で、近くのオフィスを荒らしまくっているという噂だ。
ボーナスがいっぱい貰えたと喜んでいた。
「ふふ、今日はそういう気分なの」
キキが恥ずかしそうに笑う。
「さ、彼女を満足させるために頑張ろうねぇ~」
「容赦はしない」
「え、いや、でも」
にやにやする双子姉妹に両脇を掴まれ連行される。
そんな僕を熱っぽい視線で追いかけるキキ。
キキの困ったところ。
ネトラレ性癖だ。
時々、僕がほかの女性にめちゃくちゃに搾り取られてる姿を見たくなるらしい。
恐ろしいのが、なぜかその性癖に、僕の周りの女性陣が好意的なところで、こうして、キキの病気が発症すると、どこからともなく現れ、キキの目の前でめちゃくちゃにされるわけである。
召喚されるのは幼馴染だけでなく義姉妹や、元高校の先輩。
ネトゲ仲間のプロコスプレイヤーとか、バイト先の人とか。
元同級生のド変態だけは現れないのがせめてもの救いだ。
ちなみにラスボスは、義母である。
あの人は本当にとんでもない。
性癖は人それぞれではあるけれど、せめて事前に相談を「ああああああ!!」
僕の悲鳴が家に響く。
部屋の壁は薄いままあが、少し前に、外壁だけは防音対策ばっちりに改装されたので、僕の悲鳴が響くのは家の中だけだ。
歓声のように聞こえるのは、大きな誤解だと声を大にして伝えたい。
☆☆☆
「ふふふふふ。私ね。この搾り取られて、出涸らしみたいになったスミニから、最後の一滴を絞り出すときに、至上の喜びを感じるの。ふふふふふ」
「きゃああああああ!!!」
朝方、家の中にまた僕の悲鳴が響くのだった。
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ハッピーエンドで終わり!!笑
エロくて可愛い女の子はたくさんいるのに、なぜ僕には出会いがないのか? @tatsunari00
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