君に降り積もる雪のような悲しみの記憶に僕は触れたくなかった。~可愛い子犬を飼うはずが黒髪清楚な美少女となぜか同棲生活が始まった件~
私のよく知る友達だった犬上オリザはもう存在しないのだろうか。【※未亜視点】④
私のよく知る友達だった犬上オリザはもう存在しないのだろうか。【※未亜視点】④
いったん入学式で起きた顛末を書く手を止めて、これまでの経緯を振り返ってみよう。私と彼女がなぜ仲の良い友達になれたのか。そして突然の別離に近い出来事が私たちの間に起こったんだ。それもわずか半年足らずで……。
冬の足音が聞こえる頃、オリザが急に学校へ来なくなった。理由は入院したからと担任から告げられた。詳しい入院先や病名は知らされず、それをいぶかしく思った私はひとりでオリザの家を訪問するが、何度行っても不在のままで本人はおろか誰にも会えずじまいだった。もちろん携帯電話も繋がらず彼女の安否を心配する日々が続いた。
その繰り返しの間に私は初めて気が付いたことがある。彼女の住所は当然連絡網などで知ってはいたが、これまで家に遊びに行ったことは一度もなかった事実だ。
オリザは自分の生い立ちや家族について語りたがらなかった。あえて私もその話題はセンシティブなのかと触れずに過ごしてきたことを思い出す。
――その後、オリザと私は思いもよらぬ場所で再会を果たすことになる。
中学生のころ私の所属していた卓球部の後輩、
自分がよく知る彼女の面影は残念ながら失った状態だったが、オリザの無事な姿を確認することが出来て私は心の底から神様に感謝した。
ああ、この辺りでもう一度、彼女について最初から振り返ってみるとするか。どうして私が
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私、
しかし女子高独特の雰囲気はあきらかに存在した。それは何をするにも群れる ことだ。移動するのも一緒。トイレも一緒。自分の中学時代にも似たような行動は女の子の間では存在したのだが、それよりもさらに磨きが掛った女子高の一種独特な雰囲気に軽いとまどいを覚えたものだ。集団生活では他人と同じ行動を取るほうが安心なのは理解出来る。それは群れとしての暗黙の了解の場合も多い。
だけど私からみた犬上オリザは他の同級生とはあきらかに違って思えた。なんと表現すればいいのかな、それは群れない態度をあからさまに前面に押し出すのではない。彼女の持つ凛とした雰囲気から初対面ではクールビューティーな印象を持たれやすいが、会話ひとつとっても出しゃばり過ぎず、ときには
そのたぐいまれな美貌に劣らず、勉強もスポーツも抜きん出ている彼女ならクラスカーストの頂点に君臨してもおかしい話ではないのだが、オリザはそんな
君更津南女子に入学した当初、私は入学式で偶然友達になったオリザに強い関心を覚えた。それは彼女に登校初日で逃げ出そうとしていた計画を頓挫させられたからではない。純粋に人として興味を覚えたというのが当時の正直な気持ちだった。
入学式といえば思い返すだけでいまでも顔から火が出そうなほど恥ずかしい。よりによって私が壇上に上がって新入生代表の挨拶を述べるなんて!! それも全校生徒の前で……。
『い、犬上さん、ちょっと待って、いったい私にどんな魔法を掛けたの!! さっきの式典であなたに身体を触れられたら、まるで操り人形みたいに身体の自由が利かなくなって。し、新入生代表の挨拶を一緒にやるなんて……』
『オリザって下の名前で呼んでもらえると嬉しいな。私も未亜さん、って呼びたいから』
いきなり名前呼びで呼んでもいいの!? まだ彼女と私は会ったばかりなのに!!
これまで十六年生きてきた自分の中で、つまらない固定概念がガラガラと崩された瞬間だった。こちらの質問にはまだ答えてもらってはいないのに、彼女を呼び止めた校舎に続く渡り廊下で思わず私は立ちすくんでしまった。
『……じ、じゃあ、オリザさん』
『うん、そっちのほうがいいな。さっそく下の名前で呼んでくれて、未亜さんありがとうね!!』
オリザの表情がふんわりとほころんだ。こんなに人懐っこい笑顔も出来るんだな。入学式での初対面の印象で勝手にクールな女性像を思い描いていた自分を反省する。
『あっ、あのオリザさん。まだ私は質問の答えを聞かせて貰っていないんだけど……』
なんで急に胸が高鳴るのか自分でもよく分からない。彼女との身体の距離は変わっていないのにすごく相手と近い感覚に思えてしまう。きっとこれはオリザから私への親愛の気持ちだ。その温かいぬくもりみたいな感情が溢れんばかりの笑顔とともにこちらへ伝わっているのだと理解するのにさほど時間は掛からなかった。
『未亜さんの質問って? ああ、一緒に新入生の代表挨拶をした件かぁ。面白かったよね。先生方も代表が二名なんて段取りにないからざわざわしちゃうし。けっこう笑えるかも!!』
『わ、笑えないよ!! オリザさん。私はキョドって壇上に上がるとき階段で転んじゃうし。あんな新入生挨拶は踏んだり蹴ったりだよ』
『未亜さん、大丈夫だよ。私が横に並んで歩いていたから知っているよ。階段で転んだときにスカートはめくれたけどパンツは見えていなかったから』
『ううっ、パンツって!? そういう問題じゃないよぉ。全然大丈夫じゃないから!!』
『……未亜さん、お話の途中だけどごめんなさい!! このまま渡り廊下で話し続けるのは人目につきすぎるから、今日の放課後、生徒会準備室に来て。そこでゆっくりお話をしましょう。じゃあ約束ね』
『オリザさん!? 待って!! あっ、行っちゃった……』
私は渡り廊下を歩く生徒の列に紛れ込む彼女の背中をただ呆然と見送るしか出来なかった。
放課後の生徒会準備室に来て。ってオリザはそこでいったい何を話すつもりだろう?
いま思い返せばあの長い渡り廊下でオリザの笑顔をみた瞬間、私はすでに魅了されていたのかもしれない。
あのときの笑顔が彼女なりに勇気を出した友達認定の証だったと知ったのは、オリザと知り合ってからかなり後になるとは当時の私には知るよしもなかった……。
次回に続く。
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