君の見たかった笑顔。僕には見えなくたって構わないから【特別編】
……見え透いた嘘も場合によっては、真実を相手に告げるより優しい結果をもたらすのかもしれない。
だけど彼女は自分の名前すら告げずに僕たちを送り出してくれた。せめてもの救いは短い語らいの時間を一緒に過ごせたことだろうか。
『きれいなお姉さんが用意してくれた料理、全部おいしかったよ!! こんなに食べたらオリザ動けなくなっちゃうかも……』
『……あらあらオリザさん。眠くなるのはまだ早いわよ。食事の締めはこれを飲んでみてね』
『くんくん、お姉さんなにコレ!? とってもいい匂いがするね!! それに甘くておいしいよ』
『シナモンミルクティーよ。薬膳効果もあるの。外に出掛けるのだから風邪を引かないようにこれを飲んでから暖かい上着を着ていくといいわ。その恰好じゃ寒そうだから私の洋服を貸してあげるね』
『なんだかお姉さんは私の本当のお母さんみたいに優しいんだね』
『……あなたの本当のお母さんか。そうね、この家では母親代わりを子供のころから強いられてきたせいかもしれないわね。でもオリザさん。お姉さんはこう見えてもまだ高校二年生の十七歳なのよ。そんなに私が年上に見える?』
『お姉さん、ごめんなさい。でも大人っぽ~い!! オリザとひとつしか歳が違わないなんてとても思えないよ。あっ、これは誉め言葉だからね、わん!!』
『うふふ、オリザさんは調子がいいわんこね。そんなに可愛く言われたらお姉さんこれ以上怒れなくなっちゃうじゃない』
オリザをたしなめるような言葉とは裏腹にその時の彼女はとても嬉しそうに見えた。由緒ある
名門女子校である
いまは奈夢子さんの過去についてあれこれ詮索するのはやめにしよう。とりあえず本来の目的に向かうとするか。
*******
「オリザ、
「わん!! そんなのは朝飯前だよ。それにご主人様、私は天音の話をこっそり聞いていたから。この森には大きな池かあってその前にある建物におばけが出るんだって……」
森の中の大きな池か。僕が子供のころ、親父に連れられて釣りをやった思い出があるぞ。
「そうか!! でかしたぞオリザ。天音たちが肝試しをする場所がその情報で大体特定出来るな」
「やったぁ、ご主人様のお役に立てて嬉しい。わん!!」
「よし!! これで探索がかなり楽になりそうだ。それにしても疑問なのは天音の奴はなんで肝試しなんて企画したんだろう? あいつは子供のころから怖い話は大の苦手のはずなのに……」
「……ご主人様、天音が最初におばけを見にいこうって言い出したんじゃないよ」
「えっ!? じゃあ誰が肝試しをやろうなんて考えたんだよ」
オリザの予期せぬ言葉に僕は思わず聞き返してしまった。てっきり今回も音頭を取ったのは妹の天音だと決めつけていたから……。
「言い出しっぺは
か、香菜ちゃんだと!?
まず真っ先に自分の耳を疑った。オリザが口にしたのは首謀者として最も相応しくない女の子の名前だったから……。
次回に続く。
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