君に降り積もる雪のような悲しみに僕は触れたくはなかった……。
――はじめての課外活動となった他県への遠征調査。そこには僕たちにとってほろ苦い展開が待ち構えていた。
『オリザ、危ないっ!!』
『きゃあああっ!!』
不幸中の幸いで自分はかすり傷で済んだ。僕に突き飛ばされて道路脇に転倒したオリザの身体も無事だったのだが、慣れない探索活動で犬の能力を酷使し過ぎた疲れが影響したのか、気絶したオリザの意識はそのまま戻らなくなってしまった。
『オリザっ!! 大丈夫か!? 頼むから返事をしてくれ……』
とっさの判断で僕は開業医である父親に救援を求め、事故現場に駆け付けてくれた車の後部座席に彼女を寝かせて自宅まで連れて帰って貰うよう依頼した。
『宣人、まっ先に連絡を寄こしてくれたのはとても良い判断だっだぞ。彼女の身体は普通の女の子とは違う。もしも他の病院に怪我で担ぎ込まれて検査でもされていたら大変な騒ぎになりかねないからな』
オリザの身体は普通の女子高生とは異なっている。それは犬の優れた特殊能力だけじゃない。それは彼女の数奇な生い立ちと深く関係しているんだ。
オリザの途中離脱という手痛い代償と引き換えに、僕たちは行方不明になっていた未亜ちゃんの母親との再会を果たすことに成功した。
だが未亜ちゃんの強い要望もあり母親のアパートでの面談には、僕をはじめ他のメンバーはあえて同席しなかった。室内でどんな会話のやり取りがあったのかは伺いしれない。
母親が突然失踪した
「お泊り会のみなさん。そして残念ですが、この場所にはいないけど一番の功労者のオリザさん。未亜のために全力で協力してくれて……。本当にありがとうございました。今日のことは一生忘れません」
――そして僕たちは長い一日を終えて帰路に着いた。
*******
「……わん、ご主人様なの?」
「ごめん、オリザ。起こすつもりはなかったんだ。でも相変わらす人の動きには敏感だな。元気そうで安心したよ」
「天音や他のみんなは? そうだ未亜のお母さんはどうなったの!! オリザは途中で気を失ってしまったけど見つけ出すことが出来たの!?」
病室のベッドから慌てて起き上がろうとする彼女の身体を片手で制した。
「動いちゃだめだよオリザ。親父の許可が降りるまでは安静にしておいて。これはご主人様である僕からの命令だよ」
「……ううっ、わかりましたご主人様。でもオリザはどこも怪我してないのになんで起きちゃだめなの? 身体中に変な線を付けられて身震いも出来ないのはつらいなぁ」
「オリザにはもう少し休息が必要だって親父が僕に言っていたよ。君が思うより犬の嗅覚を使い過ぎて身体に疲労が溜まっているんだってさ」
僕は彼女に嘘をついた。
オリザの身体は既に回復していたんだ。最新の状態で再度検査をしたいという親父の意向に僕は従った。
「オリザ、おりこうさんにしてたら早くおうちに帰れるの?」
病院用の寝巻きに着替えた彼女は、とてもやつれて見えた。本当に体重が落ちたのではない。さびしそうな表情と普段のトレードマークであるもふもふした白い犬耳付きパーカーの服を着ていないからそう感じてしまったのだろう……。
「あ、ああ、そうだ。お利口さんにしていたらすぐに退院出来るから、親父の言うことをちゃんと聞くんだぞ」
「わん!! 了解です、ご主人様」
「よし返事がよろしい!! ……さっきの話だけど天音たちは後でお見舞いに来るから楽しみにしておけよ。美味しいおやつをオリザに差し入れするために医院の向かいにあるコンビニに立ち寄っているんだ」
「うわあっ、 おいしいおやつ食べたい!!」
「ははっ、現金な奴だな。いちおうオリザは入院中のご身分なんだからあんまり食べ過ぎんなよ。僕が親父に叱られちまう」
「うん、わかったよ!! それと未亜のお母さんは?」
「それについては無事再会を果たせたよ」
「じゃあ未亜はまたお母さんといっしょに暮らせるの?」
「ああ、オリザが活躍してくれたおかげでな。本当にありがとう」
「わん!! オリザ、人の役に立ったんだね。ご主人様」
無邪気に喜ぶオリザの顔を見ていると、未亜ちゃんの件について僕たちもすべてを聞かされていないとはとても言えなかった……。
妹の天音から聞いた話では未亜ちゃんの母親との話し合いの中心人物は父親に移ったらしい。それはもっともだろう。子供より夫である父親が出る幕なのは至極当然だ。
*******
オリザの病室を後にした僕は廊下で背後から声を掛けられた。
「……宣人くん、こんにちは」
振り返った僕の視線の先に立っていた女性は意外な人物だった。
「ええっ、あなたがなぜこの場所に……!?」
次回に続く。
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