美人の生徒会長が巫女さんって何だか属性が大渋滞してませんか!?

 神社の鳥居前で僕たちに突然声を掛けてきたのは意外な人物だった。


「……いきなり話しかけてお兄さんを驚かせてしまったみたいですね。こちらの無礼はどうかお許しください」


「あなたはいったい!? なぜオリザのことを知っているんですか!!」


「やっぱり私の間違いじゃなかったんですね。よかった犬上いぬがみオリザさんが無事でいてくれて……!!」


 振り返った先には白い着物に赤い袴の巫女装束をまとった若い女性が佇んでいた。片手には竹ぼうきをたずさえている。鳥居のむこうにいるオリザの姿を確認して感極まったのか彼女は涙ぐんでいるようにみえた。


「生徒会長……!? どうしてこの神社にいるんですか。それも巫女さんの格好で!!」


 ええっ、この人は未亜みあちゃんの知り合いなの!? それも生徒会長ってどういうことだ。


「あれっ、お兄さんといっしょにいたのは猫森ねこもりさんだったのね。君更津南きみさらずみなみ女子の生徒会活動ではあなたの制服姿しか見ていないから。今日はとても可愛い私服だったので気がつかなかったの。本当にごめんなさい」


「……可愛いなんて恥ずかしいです。これは後輩の女の子から見立ててくれた服なんです。生徒会長、ちょっと私には派手過ぎないですかね?」


「いいえ、猫森さんにそのお洋服はとてもお似合いですよ」


「本当ですか!? おしゃれな生徒会長からそう言って貰えて未亜、嬉しいです!!」


 未亜ちゃんが親しげに話す女性は女子高の生徒会長で巫女さん!? そしてオリザの元気な姿を見て涙ぐんでしまう相手っていったい誰なんだよ!! 目の前にい彼女の属性が大渋滞して自分の頭の中が一気に混乱してしまう。


「質問をする前に名乗らないのは本当に無礼でしたね。あらためてお詫びします。私の名前は万代橋奈夢子ばんだいばしなむこと申します。どうぞよろしくお願いします」


 目を白黒させ混乱している僕に向き直り深々とおじぎをする彼女。和装にぴったりのおしとやかな所作に思わず見とれてしまう。


 ……び、美人過ぎじゃないか!?


 未亜ちゃんから生徒会長と呼ばれた相手は可愛いというより大人びた文句なしの美人で、なにより目をひくのはハーフを思わせる髪色の明るさと肌の白さだった。軽く毛先がカールしたアップの髪型がさらに魅力を引き立てている。


「……ええっ、生徒会長の胸がちっちゃくなってる!? いつもはあんなにグラマーなのにどうして!!」


 み、未亜ちゃん、いきなり何を言い出すんだ!! 胸のサイズが変わるなんてそんなことがあるのか?


「こらこら猫森さん。私の胸について余計な情報は開示しなくてもいいのよ。そこにいるお兄さんの頬がめちゃくちゃ真っ赤になってるじゃない」


 しまった!? 陰キャな僕はすぐ感情が顔に出てしまうから巫女装束に包まれた胸をガン見しているのがバレバレだ。隣には軟派な男が嫌いな未亜ちゃんもいるんだから少しは自重しろよ!! 


「でも生徒会長の胸がサイズダウンしてるのはなぜなんですか……?」


「猫森さん、説明するね。これはさらしを胸に巻いてるの。神社のバイトで巫女装束を着るから和装の邪魔にならないような工夫なんだ」


 さ。さらしを巻いてもそのサイズって。平常時にはいったいどれほどのになるんだ!? 


 はっ!! だめだ。いまは胸に見とれている場合じゃない。なぜ彼女がオリザのことを知っているか確かめないといけない。


「……生徒会長、いや万代橋さん。オリザのことをなぜあなたは知っているんですか? 先ほどの態度は女子校が同じだけの関係にはとても思えませんでしたが」


 単刀直入にこちらの疑問を相手に切り出してみた。オリザを遠巻きに見つめたときの彼女の反応は単なる知人だけとはとても考えにくいからだ。


「私の呼び方は奈夢子なむこでいいですよ。お兄さん」


「わかりました。じゃあ奈夢子さん、こちらも名乗らせて貰います。僕の名前は猪野宣人いのせんとです。そのお兄さんっていうのもなんか変なので、自分の呼び方も名前で構わないですよ」


「猪野宣人さん。とても素敵なお名前ね。オリザさんと一緒にいるのがあなたみたいな優しそうな人で本当に良かった……」 


 僕に告げた後で奈夢子さんはその大きな瞳にまた涙を浮かべていた。それほど彼女はオリザのことを心配しているのか?


「よかったら僕たちに教えてくれませんか? あなたとオリザの関係を……」


「……私とオリザさんの関係性は君更津南女子高でも表立って話したりはしていないからもちろん猫森さんも知らないはずよね」


「生徒会長とオリザさんの関係性!? ただの上級生と下級生以外に何かふたりの間に隠された秘密でも存在するんですか」


「それについては話すと長くなりそうだから。場をあらためさせて貰ってもいいかしら。……猫森さんは私の家の住所は知っているよね」


「はい、生徒会連絡網の画像は私のスマホの中に保存してありますから住所は分かります」


「ここの神社のバイトは午前中で終わるから、鳥居の前で午後一番に待ち合わせでどうかしら。皆さんご一緒でいらしても平気よ。その後で私の家に移動して話をしましょう」


 どうして奈夢子さんは僕たちお泊まり会のメンバーが複数人いるってことを知ってるんだ!? 人数まではまだ彼女に話してはいないのに。


「……甘酒が冷めちゃうといけないから早めにお友達のところに戻ってあげて。ふふっ、この神社の甘酒はとても美味しいってかなり有名なのよ」


 そうか、僕が胸の前に抱えている段ボール箱の飲み物で人数を把握したのか。さすがは名門お嬢様高校の生徒会長を務めるだけはあるな……。


「宣人さんとオリザさんの関係については後でゆっくり聞かせてね。じゃあ、私はそろそろ巫女のバイトに戻らないといけないから!!」


「ああっ、奈夢子さん、ちょっと待って。話は全部終わっていない!! ……行ってしまった」


「宣人お兄さん、みんなのところにいったん戻って打ち合わせましょう。後で生徒会長の自宅の住所も確認しますから」


「ああ、未亜ちゃんの言うとおりだ。これは僕の勘だけどオリザの失われた過去について、奈夢子さんはきっと何かを知っているに違いない。とんだところに思わぬ伏兵が現れたな……」


「私、何だか胸騒ぎがします。宣人お兄さん、いったい生徒会長は何を隠しているんでしょうか!?」


  ――彼女はまるで沿道に吹く風のようにその場を立ち去ってしまった。僕たちに鮮烈な印象だけを残して……。



 次回に続く。

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