女子中学生といっしょに可愛い下着選びのお買い物♡ そのに。

「……未亜みあ先輩!! 遅いですよ、センターコートの広場で待ち合わせって言ってたのに」


「待たせちゃってごめんね、香菜ちゃん。私、一階と勘違いしてイベント広場前でずっと待ってたんだよ。でも何度か携帯には確認のメールしたんだけど読んでない?」


「ああっ、こっちこそごめんなさい!! 携帯をマナーモードにしっぱなしだった……。未亜先輩、何件もメールしてくれてたんですね」


 ね、猫森未亜ねこもりみあちゃんがどうして!? この場所に現れるんだ……。


 妹の天音の部活動の先輩であり、僕と同い年の女の子だ。オリザが過去の記憶を失う前に普通の女子高生として通っていた君更津南女子に彼女も在学している。


 最近の週末には我が家で定期的に開催されている、天音のお泊まり会、あらため困った人をたすけ隊。そうなんだ人助けの案件について僕と祐二も参加して作戦会議を行っているんだ。


 困った人をたすけ隊という安直なネーミングは天音が勝手につけたんだ。もちろん僕は反対したが、多数決で押し切られたんだ。くそっ、祐二の奴まで寝返るとは思わなかったぜ……。


「未亜ちゃんもお買い物に来たんだ。ふ~ん知らなかったよ。香菜ちゃんと待ち合わせしていたんだね!!」


 僕は努めて明るい声を出した。その理由わけは彼女がお泊まり会で時折見せる寂しそうな表情が気にかかっていたんだ。それは無理もないだろう……。母親が行き先も告げず家を飛び出してからかなりの日数が経過している。天音が僕にこっそり教えてくれた話しだが、未亜ちゃんが忙しい父親のために、平日は母親不在の家を切り盛りしているそうだ。高校に通いながら家事全般をまかなう大変さは最近の僕には想像出来る。


「はい、宣人お兄さん。たまには食材以外の買い物で気分転換したくなりましたから。それよりどうして香菜ちゃんと一緒にいるんですか? ええっ!? もしかして……。し、知りませんでした。ふたりがそんな関係だったなんて」


「み、未亜ちゃん!? 何か君は大きな誤解をして……」


「未亜先輩ったら。本当に繊細な乙女なんだから。そんなことあるわけないでしょ。私と宣人さんが付き合う関係なんて。先輩がいくら可愛い猫っぽいからって、香菜は泥棒猫みたいな真似しませんから!!」


 僕の弁解の言葉を遮って、香菜ちゃんがその場を明るく笑い飛ばしてくれた。こういう男の子っぽいカラッとした性格が彼女のいいところなんだよな。


 それにしても何で未亜ちゃんはそんな風に誤解して、急に落ち込んだ素振りを見せるんだろう? 猫の目みたいにくるくる変わる表情で今は満面の笑みを浮かべているけど……。


「私ったら早合点し過ぎで本当にごめんなさい。遠目に見かけたふたりが身体を寄せ合っていた後に手を繋いで走り始めたから。声を掛けようか悩んでしまったの。未亜が合流したらお邪魔なんじゃないのかって……」


「全然そんなことないよ、未亜先輩。ねっそうでしょ。宣人さん」


「ああ、僕たちも偶然ここで会ったんだ。別に約束していたわけじゃないからさ!!」


「ふうっ、私が勝手に勘違いし過ぎでした。……それなら安心しました。じゃあこれからみんなでお買い物しましょうか!! 最初にどの店にいくつもりだったの、香菜ちゃんは?」


「うん、宣人さんのお買い物で下着のお店にいこうと思ってたの。その先のフロアに期間限定の店舗で可愛い物を取りそろえているってうちの家族から聞いたんだよ」


 うげえええっ!? 香菜ちゃん、そんなところまで男の子っぽくあっさりと口走らないでくれっ……!!


「えっ!? 宣人お兄さんの下着ですか。さっきお店の前を通ってきたけどメンズはなさそうでしたよ」


「ううん、未亜先輩。それでいいんだよ。だって宣人さんの買い物は可愛いブラパン上下セットだもん♡」


「せ、宣人お兄さんが可愛いブラパンをお買い物って!? ま、まさか自分で身に付けるとか……」


 おわあああっ、それじゃあ僕がまるで女装趣味のある男みたいじゃないか!? どんどん未亜ちゃんの表情が険しくなっていく気がするっ!! いや気のせいじゃない。清純な彼女にとって汚物を見るようなものだぞ……。


「知りませんでした。……でも最近は女性物の下着を身につける男性も増えているって未亜も聞いたことがあります。宣人お兄さん、どうか自分の性癖を隠さないでください。私はそんなお兄さんを受け入れられるように努力しますから」


 な、何でそんな深刻な話しになるんだぁ!? 未亜ちゃん!! それ以上はジェンダー的な領域になるから出来ればそこから先は踏み込まないでくれ!!


「にはははっ!! なんて冗談だよ。ふたりの反応があまりにも面白すぎてつい悪乗りしちゃった。本当はオリザちゃんの下着なんだよね。宣人さんのはじめてのおつかい作戦ミッションほら、未亜先輩、これを見て。天音ちゃんが書いた買い物メモもあるからさ」


「……何々、メモに細かく購入する品目が書いてあるんだ。【宣人お兄ちゃんのドキドキなはじめてのおつかい。オリザちゃんの可愛い下着ブラパンセット購入のまき】!? どうして天音ちゃんはこれを宣人お兄さんに頼んだのかな? それに下着だったら本人が直接お店に来てフィッティングしないと、色々問題があるんじゃないのかな」


 僕の女装癖への疑いはどうやら晴れたみたいだ。それにしても香菜ちゃんも冗談がキツイな。絶対に僕をからかって楽しんでいるんじゃないのか。でも未亜ちゃんの言っていることはもっともな疑問だろう。男の下着と違って女の子の物は細かくサイズ設定があるくらい僕でも知っている。特にブラジャーはトップとかアンダーとか男の僕には意味不明な表示がされているはずだから。


「ふっふっふ、未亜先輩、そんな初歩的な失敗をあの天音ちゃんがすると思いますか? 恒例のお泊り会でオリザちゃんも交えて洋服の採寸をやったじゃないですか。もちろんスリーサイズまで各人抜かりなく測って数値化してるんですよ!!」


 そ、そんな羨ましいイベントが密かに妹の部屋で行われていたのか!? それもオリザまで参加していたなんて全然知らなかったぁ!!


「あっ、そうか!! だからお買い物メモにオリザさんのスリーサイズがしっかりと記入されているんですね。……あれっ、宣人お兄さん、どうして顔が耳まで真っ赤なんですか!?」


 うおおおっ、一生の不覚だ。僕はお買い物メモに書かれていた謎の数字を天音の落書きだとばかり思いこんでいたんだ。オリザの正確な胸のサイズだと!! すっごく知りたいけど特に未亜ちゃんの前では硬派なお兄さんを演じなければならない……。


「じゃあ、何も問題ないから下着選びにレッツゴーだよ!! ほら未亜先輩と宣人さん、下着屋さんは期間限定の人気店だから店内の人込みではぐれないようにしっかり手を繋いでくださいね」


 あれこれ考えているうちに香菜ちゃんから更なる指示が飛んでくる。これはモタモタしていられそうもないな。


「ええっと。じゃあ未亜ちゃん、手を出してくれる」


「は、はい……」


「う~ん、指先だけちょこっと握るなんてご両人、照れ屋な小学生カップルみたいだけど、まあいいか。作戦の第一段階はクリアってことで。さあ急ごう!!」


 香菜ちゃんの謎のつぶやきを気に留めている暇もなく、僕たちはきらびやかな装飾に彩られた下着屋ランジェリーショップの入り口をくぐったんだ……。






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