女子中学生といっしょに可愛い下着選びのお買い物♡ そのいち。
県内有数の大型商業施設、ワオンモールの店内はクリスマスイブの喧噪に包まれていた。普段の週末も買い物客でごった返しているが、年末と重なった今日はその何倍もの人口密度になっている。
親父がむかった食品売場の混雑に比べれば、僕たちのいる二階フロアは主に衣料品の店が軒を連ねているのでまだましなほうかもしれない……。
ひっきりなしにセンターコートを行き交う人混みの流れから外れ、通路脇にある簡易の椅子が並べられた休憩スペースの一角に一時避難していた。差し向かいに座る女の子――
「……
こちらから投げかけた単刀直入な質問に香菜ちゃんは明らかに動揺している。意図的に僕の顔から視線を外しているのが何よりの証拠だ。
「いや、香菜ちゃんって
気まずい雰囲気に陥ると急に多弁になるのは僕の悪い癖だ。相手が沈黙している時間が耐えられないんだ……。案の定、彼女は固く口を閉ざしたまま伏し目がちになってしまった。
「……それがなんで私にお姉さんがいるのか。って質問になるんですか? ごめんなさい、ちょっと宣人さんの言っている意味が分からないです」
「あ、ああっ、兄貴の
我ながらかなり苦しい言い訳に、冬だというのに思わず背筋に冷や汗が流れる。香菜ちゃんのもっとも悲しい記憶を覗いたから、気になって質問しているなんて口が裂けても言えない……。
「……宣人さん、正確に答えるならば女の姉妹は過去に存在しました。としか言えません。ごめんなさい、この話には出来れば触れて欲しくないんです。私以外にも悲しむ人がすぐ近くに存在していますから」
意を決したように僕に告げる彼女の瞳は涙で
これ以上彼女の気持ちに土足で踏み込んではだめだ……。
「香菜ちゃん。ぶしつけな問いかけをしてしまって本当にすまない。誰にでも打ち明けたくない思い出はあるというのに……」
「……宣人さん、そんなに深々と頭を下げないでください。私が弱虫なだけなんです、いまだに過去の出来事を引きずって、中学三年生になってもこんな男の子みたいな格好までして。本当におかしいですよね」
香菜ちゃんが語り出したパズルピースのような断片的な言葉。そのかけらだけでも深い悲しみの結末が伝わってくるようだ。彼女がボーイッシュな格好を好むのにはそんな切ない意味があったのか。
「香菜ちゃん、僕は……」
まるで二の句が継げない。悲しみに暮れる女の子に掛ける気の利いた言葉なんて僕のうすっぺらい語彙の中には存在しなかった。
「ふうっ、いつか宣人さんには笑って話せる日がくると思います。あっ、大親友の兄貴から先にするかもしれませんけど」
しばしの沈黙の後に一度大きな深呼吸をしてから彼女は普段の明るい笑顔に戻った。
笑って話せる!? その言葉の真意は掴めなかったが兄の祐二がその話に関係しているのは間違いない。
「ああっ、宣人さん、大事なことを忘れてますよ。お兄ちゃんのはじめてのおつかいです!! 早く下着屋さんに行きましょう。ほらちょうどそこに有名なお店がありますから」
おわあああっ!? 僕はとんでもないお使いを忘れていたぁ!! そのタイトルは……。
【宣人お兄ちゃんのドキドキなはじめてのおつかい。オリザちゃんの可愛い下着ブラパンセット購入の
天音の謀略にすっかりはまり、そのふざけたタイトルのお使いミッションを遂行せねば僕は死刑に処されるんだ……。
死刑とか何やら物騒だが、天音のいう意味はそれに匹敵するくらい鋭い刑罰なんだ。
罰ゲームにどんな無理難題をふっかけてくるか分からない。一例を挙げるとお泊り会で友達の女子中学生を僕の部屋に連れ込んで天音だけその場からいなくなるとか。
どこが罰ゲーム!? そんなの美味しいシチュエーションじゃないか、というニキやネキもいそうだが考えてみて欲しい。陰キャな僕が妹の天音を介さず中学生の女の子たちと長時間会話を続けるのがどんなに過酷なのかと!! ある意味死刑よりもツラい地獄の責め苦だ。
まあ、いまはオリザと個室部屋で同棲中だから、その刑罰じゃないとは思うけど……。
「さあ、宣人さん、ぐずぐずしていないで下着屋さんに急ぎますよ!!」
「ああっ、香菜ちゃん、そんなに僕の手を引っ張らないで!?」
それ以上身体が接触するのは違う意味で困るんだぁ!!
なし崩し的に僕は女子中学生と可愛い下着選びをするはめになったんだ……。
「……お~い香菜ちゃん!! やっと見つけたよ、こっちこっち!! あれっ、何で宣人お兄さんが一緒にいるの!?」
こ、これ以上誰が現れるんだ。もう勘弁してくれぇ……!!
波乱含みな次回に続く!!
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