飛んで火(女の子だらけの部屋♡)に入る冬の僕。
社交的で細やかな気配りが出来る妹のまわりには昔から自然と人が集まり、学校だけでなく近所からの評判もすごぶるいいんだ。開業医である親父の
僕が出来の良い妹とむきになって張り合っていたのは小学校高学年くらいだったな。
相手をライバル扱い出来るのはその能力が
その後の僕は情けないかもしれないが道化を演じることによってちっぽけな自尊心を守る
いま思えばそんな僕の見え透いた作戦なんて、聡明な妹にはバレバレになっていたんだろう。
だけと天音は何も言わなかった。こちらの軽口には同じ態度で返してくれた。僕たちのやりとりをもしも知らない人がそばで聞いていたら、二人が兄妹ケンカをしていると勘違いするだろう。それほどの毒舌合戦を繰り広げていたんだから。
僕にはそんな態度のなかに隠された天音の優しい心使いが最初からわかっていた。あえて答えに踏み込まない優しさ。すべての物事において白か黒か!! 妹は相手の欠点をせめて徹底的にやりこめる性格の持ち主ではなかった。
……妹の気使いはそれだけで終わらなかった。定期的に開催される我が家でのお泊まり会。僕が十二月に入り個室部屋を与えられるまでの間、お互いの部屋は階段を挟んで隣同士の位置関係になる。
『お兄ちゃん、漫画本読まして。確か寸劇の巨獣全巻、部屋に揃ってるよね。お友達が読みたいんだって』
『ちょ、ちょっと天音。勝手に入ってくんなよ。ええっ!? お友達も一緒なの!! ああ、こ、今晩は。どうも天音の兄です……』
ことあるごとに理由をつけて僕の部屋へ女の子たちが乱入してくるんだ。
なに、女子中学生が自分の部屋に
おいおいよく考えてみてくれ。確かに
『こらあ、僕のベッドに寝ころびながら足をおっぴろげて漫画本を読むなぁ!!』
『もうっケチくさいな。別に見えたっていいじゃん。私たち兄妹なんだから。ほらみんなも遠慮せずベッドに寝ころびなよ。ふっかふかだよ!!』
『あああっ、やめてくれ。ベッドの下には大事なアレが……!!』
なぜ妹の天音がお泊まり会の最中に隣の僕の部屋を襲撃するか? それには大きな理由がある。
兄貴を極度の女嫌いだと思いこんでいる妹は、リハビリのつもりで女友達を僕の部屋に連れ込んでくるんだ。すこしでも女性との接点を増やす目論見なんだ。
そして女の子からの視線に僕や部屋を晒すことによって、身の回りに無頓着な態度をあらためさせるもうひとつの狙いもあった。
天音の作戦にまんまと乗った僕は自分の外見に気を配るようになり部屋もきれいに整理整頓した。
断腸の思いで男の子のお宝コレクションを処分したのは言うまでもない……。
天音の主催する女の子だけのお泊まり会。
甘美な響きに聞こえるかもしれないが僕にとっては試練のイベントでもあったんだ。
おっと説明はこれくらいにして話を金曜のお泊り会まで戻そう。
*******
「お、お兄ちゃん、大の女嫌いをこじらせすぎて超絶美少女なお友達に直接手をだせないからって、下着のブラやパンツで何かの代用するのは変態のやることだよ!!」
うひゃああ!? 天音の友だちの前でちょっとした親切をするつもりが、最悪の状況を招いてしまったぁ!!
ま、まさか、たたんだパジャマの間に可愛らしい下着セットが入っているなんてこれはまさにブービートラップだろ!!
「あ、天音っ……!! ちがっ、これは違うんだ。僕は下着泥棒なんかじゃない」
まるでゴミ虫でも見るような妹の視線が痛い。
「……天音ちゃん、悪い冗談もそれくらいにしておきなよ。宣人さんがめちゃくちゃ困ってるよ」
「そうですよ、天音ちゃんのお兄さんは下着泥棒なんかする人じゃありません、なんてったって硬派な男ですから!!」
僕をこれほどまでに擁護してくれる女の子たちの声はいったい!?
「き、君たちは……!!
「こんばんは
「あっ、こんばんは天音ちゃんのお兄さん……」
ショートカットにナチュラルメイク、そのボーイッシュな外見にも関わらず、目鼻立ちの整ったルックスがぱっと目を引く。悪友である祐二をほめるようで少ししゃくだが透き通るような肌の白さは兄譲りだ。文句なくアイドル顔負けの美少女なんだ。
「ええっ、なんで宣人お兄ちゃんは未亜先輩のことを知ってるの? お泊まり会では先輩の意向でまだ一度も紹介してないのに……。香菜ちゃんならもう何回も会っているからわかるけど」
「ああっ、天音ちゃん、紹介の件、余計なことまで言い過ぎだよ!!」
「ありゃ、未亜先輩これは失敬しました……。お口にジッパーしまあす!!」
僕が何より驚いたのは
祐二のやつは、妹の香菜ちゃんを我が家に送り出している関係上、お泊まり会の開催は当然知っているが、妹の友だちしかいないと思いこんでいるに違いない。まさか現役女子高生、それもお嬢様校の女の子まで参加していると知られたらヤバいな。
……僕はここまで考えて恐ろしい事実に気が付いてしまった。
オリザも女子高生じゃないか!? 近隣の女子校に以前は通っていたと親父が言っていたのを思い出した。自分を犬だと思い込んでいる彼女の行動をすぐそばで見ていたから逆に
あれ? そういえば近隣の女子校ってひとつしかないぞ。
「ふっふっふ、飛んで火にいる夏の虫とはまさに宣人お兄ちゃんのことだね。ちょうどいいところにきた!!」
――妹よ、男女比が圧倒的にアウェーな状況の部屋でいったい僕に何をやらせようとしているんだ!?
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