君に降り積もる雪のような悲しみの記憶に僕は触れたくなかった。~可愛い子犬を飼うはずが黒髪清楚な美少女となぜか同棲生活が始まった件~
現役女子中学生(プラスα)の波乱含みなお泊り会のお部屋にようこそ!!
現役女子中学生(プラスα)の波乱含みなお泊り会のお部屋にようこそ!!
「なあオリザ、お前は個室部屋で一緒に暮らすかわりに、おりこうさんになるって約束してくれたよな。だから絶対に僕の言うことを聞いてくれ。そうそう、そんなふうに優しく扱ってくれ」
「わん!! オリザもっとおりこうになる。ご主人様のために」
「お、オリザ。そろそろくわえてるものをいったん離してくれないか。……あのな、噛みごこちがいいのはわかるけど。丸い部分が濡れてべとべとになっちまうからさ。それにもう外側が耐えられそうにないぞ。中身が全部外に出そうだ」
「う~~っ!! オリザの好きなようにさせてほしいの」
「ええっ、それを絶対に離したくないってそんなわがままいうなよ」
「クウ~~ン、どうしてもなの!! もぐもぐっ」
「お、オリザ!! お口に頬ばりすぎだ。そ、そんなに勢いよくぶるぶると頭を動かしたらだめだ……。外側の部分が耐えられなくなる!! あああっ、だめだ!!」
「ううっ、わ、わん!!」
「あ~あ。だからいわんこっちゃない。中身が全部出ちまったじゃないか……」
「きゅ~~ん、なんか変なの」
「オリザ、君の顔を拭いてやるから僕のそばまでおいで。ほら、お口のまわりをこんなにべとべとにしてさ。赤ちゃんじゃないんだから。ははっ、よだれかけが必要かもな」
「う~~っ、わんわん。オリザは人間の赤ちゃんと違うの!!」
「ごめんごめん、そんなに怒るなよ。君は人間の赤ちゃんじゃなく子犬だったな。でも思いっきり遊んでスッキリしたんじゃないのか」
「わんわん、とっても楽しかったよ!!」
「その顔は図星みたいで良かった。……作った天音もきっと喜ぶと思うけど、中身の白い綿が出ちまったな。丸いブタさんの可愛いぬいぐるみ」
「わん……。ブタさん、オリザが壊しちゃった。ご主人様、もう遊べなくなったの?」
「大丈夫だよ、僕からも天音にお願いしてやるからさ。ハンドメイドでまた裁縫をし直してもらうから」
「わんわん、優しいご主人様が大好き!!」
「あっ、こらこら!! オリザ、めちゃくちゃ喜びすぎだって。顔を舐めるなよ。犬のおもちゃじゃないんだから。うわうわっ!! 僕の唇は狙うなぁ!!」
おたがいの唇へのキスはまだ早すぎるから。君と僕は個室部屋で同棲をしてから日も浅いんだ。
……まったく、おもちゃで遊んでいるときのオリザは本物の犬みたいだ。人間の言葉をしゃべるのも忘れて夢中になっている。子犬特有のしつこさでブタさんのぬいぐるみをお口にくわえたり噛んだりして、あげくにぶんぶん振り回して中身の綿まで出してしまったんだ。
そういえば妹の天音が昨日の朝に、僕の携帯あてに送ってきた画像はオリザのためにハンドメイドで作った作品を写した画像の数々だった。お散歩用のリードだけではなく犬用の布製おもちゃ、そして僕が何より驚いたのは犬耳付きのカチューシャや、上着のパーカー。そして白いしっぽ付きのボトムスを市販品も顔負けに作ってくれたことだった。
その力作をみたオリザの喜びようったらなかった。昨晩は母家のリビングで親父も観客に交えて臨時のファッションショーまで始める騒ぎだった。何より喜んでいたのは妹の天音で、もともとドール沼にはまって人形用の衣装を自分で作り始めたのがハンドメイドのきっかけなんだ。人間用の衣装もお手の物で仕上げちまうくらい腕前も上達している。
「オリザ、僕は天音にブタさんのお医者さんをしてもらうから、この部屋でおとなしくしているんだぞ」
「……わん!! オリザ、ご主人様の言いつけ守るから。だけどお部屋で一匹は寂しいから早く帰ってきてね。約束だよ」
オリザとこの部屋で数日過ごしてみて次第にわかってきたことがある。
自分を犬だと信じ込んでいるのは彼女の中で強固な基盤となっているが、すべてが犬の行動様式に支配されているわけではなさそうだ。
例えるなら役柄になりきる憑依型の有名な女優のように、人格ならぬ
医者である親父の推論を引用するなら彼女は何らかの強い外的ショックを受けて、自我の精神崩壊をふせぐセーフモードに移行している状況だと。
その説をすべて信じたわけではないが思い当たるふしがある。オリザの行動パターンをいちばん近くで見ている僕しか分からないかすかな違和感ともいうべき違いだ。
犬になりきった彼女が言語を理解していると出会った当初は驚いたが、それは逆説的に考えるとオリザはあえて女子高生だった年相応の知性を心の奥底にしまい込んで子犬のふりをしている。それも無意識下の状態でだ。
僕の持つ例の
何にせよオリザについて本格的に調査を始めるのが必須事項だ。だけど僕ひとりでは行動に限界がある。誰か口の堅い協力者を早急に探さなければならないな……。
「天音、部屋に入っていいか? ぬいぐるみの内職を頼みにきたんだけど」
「あっ、宣人お兄ちゃん、ちょ、ちょっと待っててね。……ごめん、さっきみんなで話していた兄貴の件は内緒にして」
なんだ、部屋に誰かいるのか? 天音のやつ小声で何をこそこそ話しているんだ。
しばらく妹の部屋の前に佇んでいた。階段の踊り場には衣服を入れるチェストが置いてあり、その上に洗濯物が載せられていた。
「恒例のお泊まり会か。そういえば今日は金曜日で週末だったな」
なぜ僕が気付いたかというと妹の天音が部屋でお泊まり会をする日は、客人用のパジャマを人数分チェストの上に用意してあるのかいつものお決まりなんだ。
カラフルなパジャマの数でお泊まりの人数までわかる。今晩は三人だな。
「ついでに部屋まで運んでやるか」
僕は置かれていた着替えを全部腕に抱えた。
「……お兄ちゃん、準備出来たから部屋に入ってもいいよ!!」
天音の友だちに顔をあわせるのはかなり照れくさいが、ぬいぐるみを置いてすぐに立ち去ればいいだろう。
腕に抱えた着替えを落とさないよう注意しながら片手で部屋の引き戸を開ける。
「こんばん、わあああっ!!」
妹の部屋に一歩足を踏み入れようとした瞬間、僕はうっかり身体のバランスを崩し、大量に抱えた三人分の着替えを全部床にぶちまけてしまった。
「なんじゃ、こりゃ!!」
おわああああっ!! 着替えはパジャマだけじゃなかったのか!?
い、色とりどりのブラやパンツが妹の部屋の床に散らばっている。それも天音の下着だけじゃない。確実に上下で三セットあるのはなぜなんだ!!
「お、お兄ちゃん!?」
「「お兄さん!!」」
んっ、天音の声だけじゃない。それにお兄さんって複数の女の子から呼ばれたぞ!?
僕はあわてて妹の部屋の中を見回した。
「き、君たちは!?」
天音のお泊まり会に参加していた女の子二人の顔をみて僕は驚きのあまり声が出せなくなってしまった……。
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