君に降り積もる雪のような悲しみの記憶に僕は触れたくなかった。~可愛い子犬を飼うはずが黒髪清楚な美少女となぜか同棲生活が始まった件~
ねえ天音ちゃんのお兄さん。子猫みたいな女の子も好きになってくれませんか?
ねえ天音ちゃんのお兄さん。子猫みたいな女の子も好きになってくれませんか?
国道を行き交う車の
「き、君は確か!?」
「はいっ、とても嬉しいな。私のことを覚えてくれていたんですね!!」
思わず女子生徒の顔を二度見してしまった。どこか子猫を思わせるようなくりくりとした目が、僕の言葉を聞いて一段と大きく見開かれた。艶やかなショートボブカットの髪に浮かぶ天使の輪が彼女の魅力的な笑顔にさらなる彩りを与えていた。
「妹の
「はい、そうです!! 天音ちゃんの」
まさに
妹の友達と言えば前にも今回と似たような人助けをしたな。僕は世間の狭さを痛感した
「……ごめん、君みたいな可愛い女の子を目の前にすると僕は緊張してしゃべれなくなる
これはナイス回答だ!! 僕は心の中で
……目の前にいる可憐な女子生徒が誰だか思い出せないなんて、彼女の喜びようを見たらとても面と向かっていえないよな。本当は嘘なんかつきたくないんだけれども。
「うふふ、お兄さんが女の子と接するのが大の苦手なのは天音ちゃんから教えてもらってるのでもちろん知ってますよ。やっぱり思ったとおりの硬派なんですね」
えっ、かなり
「君の名前は……?」
「えっ、私の名前。
女子生徒の笑顔に一瞬で暗い影が射す、猫の目のように変わる彼女の表情を見ても僕はあえて会話を続けた。
「未亜ちゃんだよね。もちろん覚えているよ。当たり前じゃないか!! 僕が知りたいのは名字だよ。妹の天音は君のことが大好きで親しみをこめて下の名前でしか呼ばないからね」
本当は心臓がバクバクものだが、こちらへの親愛の念を小柄な身体全体で表現している女の子を悲しませたくないからこんな
「なあんだ、それなら未亜も納得です。じゃあ一回しか言わないからちゃんと名字まで覚えてくださいね」
いたずらっぽい表情で制服の細い腰に両方の手をそえ、すこし前かがみの姿勢になる彼女。その大きな瞳に見つめられ、僕は胸の鼓動が高鳴るのを抑えきれなかった。
「猫森です、猫森未亜(ねこもりみあ)」
「失礼かもしれないけど猫森ってかなり珍しい名字だよね」
「……そうですね、友達からもよくいわれます。なんでも親から教えてもらった話では全国で十世帯ぐらいしかなくて、このあたりの地域ではまったくいない名字です。でもお兄さんのフルネームも私に負けず劣らずって感じですよね!!」
「ああ、僕の名前か。確かにそうだな……」
僕は自分の変わった名前に話題がすぐに移行するのは昔から慣れているが、どうしても口ごもる癖は抜けきらない。
子供のころからさんざんいじられ学校でもからかわれてきた。俗にいうキラキラネームみたいな変わった名前。一昔前に流行った歌謡曲のタイトルに当てはめて小学生時代の僕についたあだ名はイノセントワールドだぜ。子供心にもむちゃくちゃ傷ついたものだ。
未亜ちゃんの言葉に他意はないのは承知だ。自分の
「……とっても素敵な名前だと思いますよ。もしもお兄さんが良かったら今度天音ちゃんの家でお泊まり会をするときにでも名前の由来を教えてくれませんか?」
我が家でのお泊まり会!? 少しずつ思い出してきた。妹の天音が定期的に開催する仲間内のイベントのことだ。個室部屋に移る前は、部屋が階段を挟んで隣だったので妹の部屋から聞こえてくる女の子たちのにぎやかな声で寝不足になっていたんだ。
「別に教えるのはかまわないよ。僕の家でもあるから大体部屋に居ると思うから」
「あっ、いつも騒がしくして隣の部屋で眠っているお兄さんにとっては迷惑ですよね。ごめんなさい」
しなやかな子猫を思わせるような外見に、性格まで気まぐれかと思いきや、礼儀正しさも兼ね備えた女の子なんだな、未亜ちゃんって。
「ああ、大丈夫だよ。またいつでも遊びにおいで。それに僕は別の部屋に移ったから、どれだけお泊まりで騒いでもこれからは構わないからさ」
「ええっ!? そうなんですか。部屋が遠くなるとかなりショックかも……」
なにげなく個室部屋に引っ越しした件を未亜ちゃんに話してしまった。後で考えればそれが大失態な発言だったと思い知らされる。どうして彼女がとてもがっかりした
「でも疑問なのは君は妹の天音よりもずっと大人びて見えるけど本当に中学の同級生なの?」
「えへへ、大人っぽいなんてほめ言葉は嬉しいです。天音ちゃんとは部活の先輩と後輩の関係ですよ。私はひとつ年上でいまは隣町の女子校に通ってます」
そうか、彼女の話しを聞いて
「天音ちゃんからお勉強だけでなく志望する女子校についていろいろ教えてほしいってお願いをされたんです」
だから年上の彼女もお泊まり会に参加しているのか。天音のやつ、自分の進学について考えてないようでしっかりリサーチしてるんだな。あいつらしいや。
「あっ、いけない!! もうこんな時間。残念ですけど電車に乗り遅れちゃうからそろそろ行きますね」
「ああ、ごめんね、すっかり話し込んじゃってさ。車には充分気をつけて」
「はいっ!! お兄さんに大変なところを助けてもらって本当に嬉しかったです。それに私が思っていたとおりの硬派な男性でしたから……」
未亜ちゃんの頬が心なしか
深々とおじぎをしたあとでゆっくりと自転車に跨がる彼女にむかって数回手を振った。僕はそのまま彼女を見送るはずだった。
「天音ちゃんのお兄さん、じゃあお先に失礼しますね」
「ああ、気をつけて……。ぶほっ!?」
駅の方向にむかって次第に遠ざかっていく彼女の自転車。その後ろ姿をみて僕は思わず
「ええっ未亜ちゃんの制服のスカートがめくれあがって白い下着が露出しているだと!? なんで彼女はあんな状況になっているんだ!!」
原因がわかってきたぞ。自転車で走り始める前に背中に背負い直したリュックが元凶なんだ。推測だが最初は自転車のかごに荷物を入れていたのが、交差点で車とトラブルになったときに横断歩道でうっかり落としたんだろう。
地面に落ちたリュックを僕が拾う際に自転車のかごではなく本人に直接手渡してしまったのも、気を利かせたつもりが裏目に出てしまったのかもしれない。
妹の天音から以前、聞いたことがある。女子中、高生はリュックの肩紐を極端に長くルーズ目に背負うのがおしゃれのセオリーだと。だけどその着こなしには大きな罠が隠されている。
腰あたりまで下がったリュックにプリーツスカートの裾が巻き込まれて女性にとっては恥ずかしい事故が起こってしまうんだ。まさにいまの未亜ちゃんの状況だ。
このまま気がつかずに通学の混雑した電車に乗ったら彼女はきっと好奇の視線にさらされてしまう。ええい、この場で悩んでいる暇はない!!
「お、おい未亜ちゃん、ちょっと待ってくれ!!」
僕は
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