第4話

 大河原が言葉を失い、憐れみの目を向け、長谷川の肩に手を置いた。


「ハッセ……」

「やめろ、その呼び方。ネットじゃヴォルデモート並の禁句だからな、お前」

「ごめん」

「今までそんなあだ名で呼んだことない癖に、お前こんな良い場面で変なニックネームをぶち込むな。さっきまでのシリアスなムードがふっとんじまうよ」

「面目ない。ネットとかよく分からなくて。とりあえず、おにぎりいるか?」

「山下清じゃねぇ!どこにおにぎり食べて落ち着く奴がいるんだよ。『ああ、イライラしてきた!オニギリ食べよ』なんて言ってる奴見たことあんのかお前」

「すまん、間違えた」

「どういう間違えだ」

「ところで、山下清ってあの画家の人でしょ?おにぎり食ったら落ち着くの?」

「聞くな。そんな詳しくないまま、テレビドラマのイメージで言っただけだから。だから、聞くな」

「分かった。そのドラマってたしか山下清本人を『お腹が空いたんだなあ』としか言わない馬鹿みたいにしたから、山下清の子孫に怒られたやつだよね。昔、炎上してた」

「よく知ってんな。お前なんかネット詳しくないか?」

「いや、ネットのことはよく知らんのです。あれれ?そういえば、さっきさ……」

「なんだよ」

「『おにぎり食べて落ち着く奴なんていない』って言ってたよね?」

「あぁ」

「その前には『山下清じゃねぇわ』って突っ込んだんだよね?」

「あぁ、それがなんだよ」

「なんかおかしくない?」

「はぁ?」

「山下清はおにぎりを食べたら落ち着くって、そう思っているからおにぎりを出された時に、『山下清じゃねぇわ』って出てきたんじゃないの?」

「いやぁ…」

「もしも、そう思ってないならさ、あのときの突っ込みは『誰だよ』とか『おにぎり要らねえよ』で終わりませんかね?つまりだよ?」

「もう見逃してくれぇ」

「はい、論破」

「お前やっぱりネット詳しいだろ!」

「いいえ。じゃあ、謝って」

「なんでだよ」

「はぁ、頭を下げられない現代人ってやつか」

「いや、侍の方が頭下げないと思うぞ」

「仕方ない。今回だけだぞ、見逃してやるのは」

「すみません。って、なんでオレが責められているんだよ」

「んじゃぁ、ワンモアさっきのセリフいってみようー」

「突然だな。よし。じゃあ、もう一回だけな。3、2、1……」


 

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【短編コメディ】大河原と長谷川〜無能社員が異世界に行くまでの話〜 チン・コロッテ@少しの間潜ります @chinkoro

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