第13話:視線がやらしい。ジロジロ見ないでよ

「まったく、翠月も翠月よ。どうしていつもいつも……っ」


 どちらかというと、妹のほうがしっかりしてる印象なのに。


 姉も姉で、いろいろ大変らしい。


「手が止まってる。まだ30分も経ってないぞ」


「追い詰められないとやる気でないの」


「そう言って、結局やらないだろうが……」

 


 前は、よくこうして勉強していた。

 

 進捗を考えれば、非効率に決まっているけど、それでもよかった。


 集中なんて持つわけなくて。


 すぐ寝息が聞こえてきて。


 気になって、寝顔ばっかり見てしまって。


 結局、一夜漬けで何とかしてたっけ。



「よぉーし、今から本気だす……!」


 正座して、深呼吸。


 髪をあげ、即興ポニテ。


 つい、目がいってしまう。


「視線がやらしい。あんまジロジロ見ないでよ――勉強、しないでいいの?」


「もう終わってる」


「お願い教えて」


「人頼みかよ……」


「だって。何やればいいか分かんない」


「いいけど――寝るなよ」


「まかせなさい!」


「なんで偉そうなんだよ……」


 ◇◇


「んーーーっ、疲れた~~~っ!!!」


「おつかれさん」


 勉強嫌いにしては、珍しく頑張っていた。


 まだテスト範囲の半分も終わっていないけど。


 同じ授業受けているはずなのに、公式すら覚えてないって……。


 期末はどうするつもりだったんだ。


 数学は、明後日が試験だ。



 機嫌良く、お茶を淹れてきた。


 一時の解放。

 

 ずっと座っているのが、よほど苦痛だったみたいだ。


「はぁ~ふ、ねむ~ぅ」


 お茶を冷ましながら、スナック菓子をつまむ。


「ねー、進路決めた?」


「何、急に」


「三者面談あったでしょー」


「ああ……」


 先月を思い出す。


 高2の二学期は、人生の分岐点だ。


「M大に行くよ。受かるといいけど」


「なにそれ、嫌味? ……受かるでしょ、あんたなら」


 即答がこそばゆい。


「そっちは。どうなんだよ」


「私は……別に。専門行く気でいた、けど……」


「服飾だっけ」


「……っ、覚えてたんだ」


「今思い出した」


「ふぅ~ん?」


 目を背けた。


 ◇◇


「それじゃ、片づけちゃうわね」


「ごちそうさま。運ぶの手伝うよ」


「いいって、先生はじっとしてて~」


 すっくと立ち上がり――。


 ガクッとよろけた。


「あぶなッ」


 慣れない正座。


 足がしびれたのだろう。


 急降下。


 倒れる。


 ――ドスンッ――


「イ……っ、たぁぁ~~……っ! ゴメンっ、だいじょ~~ッ」



 瞼を開く。


 目が合う。


 虚ろな瞳。


 ゼロ距離。


 袖を掴む。


「ごめん。やっぱり、まだ――」


「~~……ッッ!!」


 振り払う。


 ぼやける。


 申し訳なさで、頭がいっぱいだ。


 また、彼女を傷つけてしまった。


「……帰って」


「本当ごめん」


 胸が、痛い。


 無言で帰った。

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陰キャ童貞とクソビッチ ~付き合って一週間でNTRってマ?~ 処雪 @yutono

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