第12話:センパイ、勉強教えて……?

 元カノ妹に、勉強を見てほしいと頼まれた。


 姉と同じ高校を受けるらしい。


 大きな借りがあるし、断る理由もなかった。


 今週は帰りも早いし。


 中学も高校も、今週から期末試験だ。


 ◇◇


「お姉ちゃん帰ってきた……っ!」


 遠くから『ただいまー』と聞こえる。


 気怠げな声。


 気が緩んでいるのは明白だった。



 少し経って、扉が開く。


「おかえりーお姉ちゃん」

「おかえりー」


「うーん、ただい……ま~~ッッ!?!?」


 二度見。


 飛びのいた。


「えぇぇえええ……ッ!? なんでいんのよ~~っ!!」


「言ってなかったっけ? 実は私たち、そーゆう仲なの~」


 これ見よがしに腕を引かれ、とても気まずい……。


 ◇◇


「へ~~~えっ? どーゆうことか、じ~~~っくり説明してもらいましょうかぁ」


「ちが……ッ、誤解なんだ……! 黙ってないで、翠月ちゃんからも言って――」


「んぅ……っ、ふぁ……センパイ……手が当たって、いや……ぁ」 


「どこ触って……!? あ、アンタ……ぁっ! 人の妹に手ー出して、どーなるか分かってんでしょうね……ッ!!」


 激昂。


 こうなると、収拾がつかない。


 けれど、正直、ちょっとスカッとした。


 誤解とはいえ、紛らわしいことをした、その仕返し。


 図らずしも、少しはわからせられたかと思う。


 もしかして、翠月は初めからこれを狙って……?


 さすがに、考えすぎか。


 ◇◇


 元カノの家。


 一度だけ来たことがある。


 けれど、リビングに通されたのは、今日が初めてだった。



「おねーちゃん、いつまでそーしてんの~? 冗談だって言ってんじゃん~」


 当の元カノはといえば、すっかり拗ねてしまった。


 クッションを抱いて、体育座り。


 制服のまま。


 直視すれば、中が見えてしまう。


 警戒心ゼロか、こいつは……。


「こーでもしないと、一生勉強しないでしょ~? ママが怒ると、こっちまで巻き添えになるんだから……」


 彼女は成績が悪かった。


 そもそも、勉強をしない。


 テスト前の遊びを断って、機嫌を損ねた時には、さすがに参った。


「じゃーあとは若いお二人で。ごゆっくり~」


 そう言うと、部屋に戻った。


 ◇◇


 ――ガチャ――


 扉が閉まり、ほっと息をついた。


 ジト目で見られる。


「ロリコン」


「だから、違うって」


「いつの間に仲良くなったのよ……。面識なかったはずでしょ」


「命を、救われまして……」


 赤信号でのことを話した――。


「やめてよね。身内が事故るとか、フツーにしんどいから」


 心配された。


 投げやりだけど、悪意がないのを知っている。


 そもそも、原因はお前だとは、言えなかった。

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