第11話:しょうがないなぁ……先輩、私が手伝ってあげます

 冷や汗が出る。


「分からない。ついさっきまで、ずっと浮気されたって思ってたし……正直、だいぶ戸惑ってる」


「まあ、ですよね」


「でも、誤解したことはちゃんと謝るよ。向き合いもせず、初めから逃げた自分が悪かったと思う……」


 ――カチャッ――


 フォークが落ちる。


 見れば、彼女は手を伸ばしたまま、なぜか固まっていた。


 代わりに拾うと、「すみません」とおしぼりをくれる。


「失礼しました。それで、お姉ちゃんと会う日とか決めてるんですか? なんだったら、私から」


「一応、クリスマスに会う約束はしてるんだ」


「じゃあ、そこがいいですね……ってぇぇえ……ッ!? ちょっと待ってください!? は? マジメに理解が追い付かないんですけど、え……二人はケンカしてるんですよね? なにがどうして、破局したカップルがクリスマス会う流れになるんです!?」


「そうなんだけど……。ちょっと、いろいろあって……」


「いろいろじゃ説明がつきません。この期に及んで、まだ何か隠してますよね。それ聞くまで帰しません」


 聞かれたので、すべて白状した。


 浮気された腹いせに、もう一度アイツを惚れさせて、同じことをしてやる計画を練っていたこと。


 そのつもりで付き合う前と同じ距離で接し、愛想を尽かされないような関係を維持していたこと。


 そんな子どもじみた話、中学生相手に、それも元カノの妹にするべきではなかった。


 話すつもりなんてなかったのに、口をついて出てしまって……。


 すべてを話し終えると、やっと肩が軽くなった。


「はぁぁ……どんだけこじれてるんですか。先輩もお姉ちゃんも恋愛初心者どころか、赤ちゃんですか。はー、もう見てらんないなぁ……」


 椅子を引くと、ガックリとうなだれた。


「しょうがないなぁ~、より戻すの、私が手伝ってあげます――ほら、連絡先交換しましょ」


 言われた通り、スマホを開く。


「はーやーく~」


「どうして……」


 QRコードを出すと、すぐに新しい友達が追加される。


 早速、名前入りのスタンプが送られてきた。


 友達一覧とスタンプを見比べる。


 翠に月と書いて、みづきと呼ぶらしい。


「さっき『好きかどうか分からない』って言ってましたけど、まさかそこまでこじれてたとは」


「姉にそんなことされて、怒ってないの?」


「それはちょっとはありますけど、まあ私関係ないですし。それに、自分で気づかないと意味ないしすべては言いませんけど、普通、心から嫌う相手には、関わる気すら起きませんよ。まったく、どんだけ不器用なんですか、高校生にもなって。あーあ、鬼キモ~い」


 散々、悪態をつくと、翠月は今度こそ立ち上がった。


 食器を片づけて、店を出る。


 5時をまわると、外はすっかり暗くなっていた。


「とりま、クリスマスが目途ですね。もうあんま時間ないし、それまでにちゃんと計画練らないと……」


 振り向き、スカートがひるがえる。


「じゃー私この後予定あるので。ケーキ美味しかったです、ごちそうさまでした~」


 駅とは逆方向に駆けていく。


 よりを戻すため、なぜか元カノの妹が協力してくれることになった。

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