第15話 報告
「雷を落とすゾウ……ですか?」
遺跡にてマジック・エレファントと戦った、その数日後のことである。
俺とルージュは、遺跡についての詳細な報告をするため、冒険者ギルドを訪れていた。
マジック・エレファントの特徴について説明するルージュに、受付嬢は怪訝そうな表情をしている。
たしかに、一般人にとっては、ダンジョンボスなんて馴染みのない生物だ。受け入れがたいのは分かる。だが、残念ながらルージュが語ったことは真実なので、そんな助けを求めるような目で俺を見ないでほしい。
特に雷を纏ったゾウなんていうゲテモノを処理しきるのは大変だろうが、俺ができる説明は、ルージュと同程度のものでしかない。
「……とにかく、報酬については改めてお話しするとして……そのゾウ型のモンスターについては、こちらでも調査をしてみますね」
「私たちがもう一回遺跡に潜るんじゃなくて、冒険者ギルドで調査をする……?」
受付嬢の言葉にルージュが首を傾げる。ルージュはしばし悩む素振りを見せた後に、「もしかして、あの遺跡、解放されたんですか!?」と大声で言った。
「はい。一度ファンジョンボスが倒されたからか、おふたりが遺跡から出てきたあとは、誰でも遺跡内部に入れるようになったようです」
もともと、俺とルージュが「たったふたり」で遺跡に挑むことになった理由は、冒険者ギルドお抱えの調査隊が、遺跡に入場する資格を持っていなかったためだ。彼らが遺跡に入場することができなかったために、そもそも冒険者ですらない俺と、駆け出し冒険者ルージュ……遺跡の第一発見者である俺たちに調査の依頼が来たのである。
受付嬢の口ぶりから察するに、「遺跡を一度でも攻略すれば遺跡は一般に解放される」という俺の考えは正しかったらしい。
「あぁ、そうだ。遺跡内で入手したアイテムについてですが……」
「はい。たしか、長剣でしたよね。アイテムの類は、おふたりで分配してもらって構いません。この件に関して、冒険者ギルドは手数料を取ることなく、全力でサポートさせていただきます」
冒険者ギルドによるサポート……今回の場合は、おそらく鍛冶職人の紹介になるだろう。
遺跡の最奥にある「装備の間」で入手できる武器は一種類のみだ。スメル遺跡においては、「古代の長剣」と呼ばれるアイテムである。「古代の長剣」は――正確に言うと、「古代」と名前のつく装備は、それぞれ職業ごとの精錬が可能になっている。
簡単に言うならば、職業に見合った武器へと変身してくれるのだ。
この「デス戦」においては、職業――正確には少し違うが――というシステムが存在する。重ねて、プレイヤーは転職を自由に行なうことができる。
古代と名前がつく装備は、ひとりのプレイヤーにつき一種類ずつしか手に入らない。古代の装備は、遺跡の初回クリア報酬のようなものだからだ。では、「古代の長剣」が手に入るスメル遺跡をクリアした場合――長剣を扱わない職業においては古代の武器を扱うことができないのか、というと、そういうわけでもない。
ここで登場するのが、鍛冶職人だ。鍛冶職人は「古代の長剣」を錬成して、様々な武器へと変形させてくれる。
お金はかかるが何回でもやってくれるし、「古代の武器」は序盤においては貴重な高レアリティのアイテムなので、このシステムはありがたかった。もっとも、ある程度のベテランプレイヤーになってくると、古代シリーズの装備では物足りなくなってエンドコンテンツに手を出すようになるのだが。
「この程度のサポートしかできず、申し訳ございません」
「いえ、そのサポートが助かりますので。こちらこそ、ポーション類の準備など、ありがとうございました」
あのポーションたちが無ければ、俺たちは命を落としていたかもしれない。最低限だけポケットの中に突っ込んでいたポーション類は、どうかこれだけは持って行ってくれと頼まれてポケットの中に仕舞い込んだものだった。
俺は、もちろんそんなつもりは無かったが、このスメル遺跡のことを甘く見ていたのだろう。なにせ初回のスメル遺跡はボーナスステージ……チュートリアルだと思っていたからだ。だから、ポーションも、かなり少ない量しか持っていくつもりはなかった。
俺の言葉を聞いて、受付嬢が目を伏せる。俺はスメル遺跡を舐め腐っていたが、冒険者ギルドとしては、そもそもそんな危険な目に遭わせるつもりは無かったのだろう。
俺たちには「依頼を断る権利」もきちんと与えられていたのだから、彼女がそこまで気に病む必要は無いと思うのだが……もっとも、俺が彼女の立場であれば彼女と同じような心境になっていただろうから、深くはツッコまないことにする。
「おふたりが無事で、本当に良かった」
受付嬢は、「調査、お疲れ様でした」と言って、俺たちに向かって深々と頭を下げたのだった。
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