第14話 怒れる悪魔

 マティアスは弘人が無事であることを確認するとほっとし、そして男に目を向けた。その瞬間、表情が嫌悪に変わる。


「またお前か、カウボーイ」


「ちッ……、相変わらず音もなく来やがる。だが、貴様の命は今日で終わりだっ!」


 二丁のピストルを掴んだ勝彦は、マティアスを撃つ。師匠は慣れた様子で弾を避けた。銃弾はそのまま壁にのめりこむ。

 男は撃ち続けるが、青年は一瞬で弘人のそばによる。そこで勝彦の連射が止まる。


「撃たないのかい」


「……他人は巻き込めねえ。俺が殺すのはあくまでもお前だけだ」


「さすがは『上』の人間」


 マティアスはにやりと笑い、長い脚でピストルを蹴り飛ばした。

 佐藤は今度は掴みかかるが、少し床を転がったところで、彼はすぐに抑えられてしまった。青年はまた不気味な笑みを浮かべる。


「前にも言った通り、君は殺さないでおくよ。その他の俺の『刺客』とは違って、礼儀があるからね。その代わり、君に一つの仕事を与える」


 マティアスはそこで声を低くした。


「俺が第四段階に到達したときには、ちゃんと殺してくれ」


「ちッ……」


 なにもできなかった勝彦は悔しそうに舌打ちをした。マティアスはピストルを拾うと、弘人を拘束していた紐を解き、立ち上がらせてここから出ようと促した。そこで男は吐き捨てる。


「偉そうに命令してくるところは、とまったく一緒だな。クソぼんぼんが……」


 そこで、師匠の雰囲気が変わった。目が黒くなり、頬に黒い模様が浮かぶ。


「俺の……一家……? 俺の一家だと……?!」


 師匠は瞬時に佐藤を掴むと、床に放り投げた。呻く男に、青年は近づく。


「俺の一家がどんな奴らかわかってんのか貴様!! 奴らはゴミで、クズで、自分の家柄と金のことしか考えねえ奴らだ!! そんな奴らと一緒にすんじゃねえ! クソぼんぼんだとッ……?! 確かに俺の家族は豊かだったが、その代償になにを得た?! 地獄だ!! 貴様が次そんなことを言ってみろ!! 貴様の臓器を切り裂いて、町中に干してや____」


 そこでマティアスはなんとか意識を取り戻した。ちらりと弘人のほうを向くと、恐怖に染まった顔をしているのがみえた。青年は深いため息をついた。模様が消えていく。


「これだから弱者は嫌いなんだ。自分より上の境遇の奴らに文句ばかり言う。俺たちがどんな思いをしているかも知らずに。死にたくなかったら、もう俺の家族に関しては一言も言及するな。いつ暴走するかわからないぞ。行こう、弘人」


 青年はそのまま、弘人とともに出ていった。


 佐藤勝彦はしばらく閉められた扉を見ていたが、帽子を深くかぶりにやりと笑う。

 彼が今回知りたかったのは、謎のマティアスの弟子、弘人が本人にとってどれほど大事かであることだ。やはり子供を傷つけないというスタンスでいる彼は、すぐにこちらに飛んできた。


「ガキにあの子を重ねているんだろ、マティアス。俺にはわかるぜ……」


 男は静かに呟く。弘人は利用価値がある。きっと将来役に立つだろう……。

 未来を予感した彼は、満足した顔で部屋を後にした。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る