第13話 人質
弘人が気絶しても、彼の脳の働きは止まらず、よくわからない夢を見せていた。しかし、だんだんと右腕のしびれがひどくなり、それが少年の意識を呼び戻した。
目が覚めて弘人が最初に見たのは、さびれた部屋。床には木材などのカスが転がっており、ガラスは割れている。
弘人の腕と足は縛られており、動かせなかった。右腕がしびれて痛いのは、おそらくずっと横になって寝ていたからであろう。
体をなんとか起こすと、目の前にあのカウボーイが帽子を深くかぶって眠っていた。
(逃げるならば今がチャンスか……?)
弘人は状況を察し、足を縛ったロープを切ろうとなんとか体を動かす。だが、縄がそう簡単に千切れるはずもない。
そこで弘人は師匠に言われ、靴の底の裏に潜ませていた薄い小型ナイフを取り出そうとする。しかし、うまくいかない。手が縛られたまま靴から何かを取り出そうとするのは、思っていたよりも難しいことだったのだ。
最終的に弘人は失敗して、大きな音を立ててしまった。
「はっ」
そこでカウボーイがすぱっと起きる。彼はぐにゃぐにゃと動いている弘人を見た。
「……なにをしているんだ?」
少年は一度止まって、じっと男を睨みつける。
「なにって……そりゃ逃げたいからです。なんで僕を誘拐して、しかも拘束しているのですか? 何者なんですか、あなた」
「俺か?」
男はにやりと笑い、帽子を脱いでお辞儀をした。
「俺の名は
「上から……?」
つまり、地上からということだ。
「そうだ、仕事を頼まれたんだよ。マティアスを殺す仕事をな」
「は……? なんで……?」
佐藤という男はケラケラと笑った。
「お前……弟子とか言っていたくせに、全然彼のことを知らないんだな」
「は?」
反論しようとした少年だったが、そこで黙り込んでしまった。男の言う通りだ。自分は師匠に関して、何も知らない。
「まあ聞けよ、お弟子さんよ」
男は手を組んで語り始める。
「マティアスはこの地獄みたいな世界に来て、すでに5年以上たっている。奴がここに来たときまだ17歳であったのにも関わらず、この世界で力を持っていた連中を次々と殺していった。ただのガキ、ましてや運動はそこそこしかできなかったマティアスがそんなことができるわけないだろう。強い殺意がなければな」
「強い……殺意?」
「そうだ。黒目病のせいなんかじゃねえ。マティアスは最初っから異常だったんだ。人が普通持ちえない激しい怒りと憎しみを抱いていた、特別な人間さ。そんな奴が『上』で罪を犯さず、ここにおりてきたというのかい?」
「だとしてもなんなんですか」
弘人は反論する。
「そんなのバウンティーセンターに名前を登録して、他の患者が殺すのを待つだけでいいじゃないですか。どんな極悪犯でも上の人はなにもしてこないし。なんで師匠はわざわざ人が『上』から人が派遣されるほど、殺されなければならない人物なんですか?」
「へへへっ」
男は気持ち悪い笑い声を立てた。
「そりゃあ、あいつが特別だからだ。普通の人間じゃないんだよ。だから皆、あいつのことを血眼にして探している。あいつがしたことが地上で広まればイメージダウンになっちまうからね。でも奴らが雇った民間ハンターでさえ、あいつを見つけることはできなかった。そもそも普通の人はここには長くいれないからなあ。だから俺に仕事が託された。お前、あいつの苗字を知ってるか?」
「……いや」
弘人の心臓がどくんと鳴った。なぜだろう、嫌な予感がする。
「だろうな、知ったら驚くぜ。あいつの本名は_______」
そのとき、部屋の扉が大きな音をたてて破られた。入ってきたのはマティアスだった。
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