師匠の謎
第12話 謎の男
初仕事から一週間たったが、弘人はいまだに自分がしたことから回復することができなかった。彼はただソファにぐったり座るか、家事をするかという生産性のない日々を過ごした。
「ちょっと外でかけてくるよ」
その日、マティアスはいつものトレンチコートを着て弘人に話しかけた。
「どこにですか?」
「海鋒さんからちょっと頼まれたことがあってね。なあに、暴れているクソを少し始末するだけさ。あの人元警官だからちょっと残酷な奴がやってくると、すぐに消したがるんだ。特にそいつらがバウンティセンターに登録されていないとね。君も来るかい?」
弘人は一瞬迷ったが、血まみれの田村の姿を思い出し気持ち悪くなる。
「……いや」
「はは、そうかい。じゃあここで休んでいな。でもできるだけ早く回復するんだよ。こんな殺し一つくらいでいちいちゲロ吐いていたら、いつか殺されちゃうからね」
物騒な言葉を残しながら、マティアスは外に出ていった。
弘人は思わずため息をつく。
暇になったので、周りを掃除することにし、ボロボロの布切れを掴んだ。それを少し水に濡らし、あたりに染みている血を拭いていく。それが一通り終わると、今度は少し溜まっていた洗濯をすることにした。
仕事が終わると、結構時間が経っていたことが時計を見てわかった。
この地下都市では時間を知る方法は、時計のほかない。なぜなら太陽がなく、昼なのか夜なのかもよくわからないからである。どんな時間帯でも外をほの暗く街灯が照らしていて、寝るときも「夜だから寝る」というよりは昼寝するときの感覚に近い。
することがなくなった弘人は、とりあえずソファに座った。マティアスの家には特に何もない。ただ、どこから取ってきたのかわからない音楽プレイヤーがぽつんとあるだけだ。
なにか音楽でも聞こうかとでも思ったとき、弘人の耳がなにかを拾った。
誰かの足音。師匠が帰ってきたのかと思った少年だったが、彼が行動に移す前に突然建物の扉が押し倒された。
現れたのは……男。カウボーイのような帽子を被り、銃を持った奇妙な人物だった。
「やっぱりだ! ここがあいつのアジトだな?」
いきなりのことに、弘人は反応できないでいた。
「おや?! お前はマティアスではないぞ! マティアスはどこだ?!」
「……でかけています。あの、お客様でしょうか……?」
マティアスは弘人に、ときたま「悪魔」と呼ばれる彼に、復讐の依頼をしてくる患者が来ることがあると言っていた。恰好的におそらく違うが、一応可能性が完全にないわけでもないので、少年はそう尋ねたのであった。
「んー、客ではないがマティアスに用はあった! 奴はいつ戻る?」
「わかりませんが、今日中ではあると思います」
「そうか! ちなみに君は誰だい?」
男の目が弘人をじっと見つめる。なぜか少年は彼の瞳からただならぬ気配を感じた。警戒心はあるが、どうすればいいかわからない。下手すれば撃たれてしまう。
「……弘人です。マティアスさんの弟子をしています」
呑気にも彼は答えてしまった。
「ほほう、弟子か……。じゃあ彼とは結構仲がいいのかい?」
「……た、たぶん?」
ふーん、と男は顎に手をやる。
「なるほど、わかった! 君を誘拐することにしよう!」
え、と疑問の声が弘人の唇から漏れる前に、少年の口がガーゼでふさがれた。すぐに視界が暗転した。
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