第30話 龍の女帝

そなたにかしずくことこそが

我が至上の喜び

麗しき龍の女帝よ

至高の眼の女性おみな


そなたこそは

いと高き玉座に住まう東洋の神秘

その黒曜石こくようせきにも勝る

美しきぬばたまの髪は

天輪てんりんの如く

輝かしい光輝を放ち

世の女誰もが羨んで仰ぎ見

ただ憧れずにはいられない

そんな女達の口からひたすらに零れる

感嘆と羨望の吐息を耳に

そなたはその薄い唇に

気紛れに官能を

気紛れに絶望を

そなたは微笑みを浮かべ、甘やかに囁く

うたえ、謳え、謳ってみせよと愉しげに


さらにそなたはその優しく獰猛な牙

細い弓のような形のよい眉を寄せて

気紛れに微笑み

気紛れにいたぶる

高邁こうまいな崇拝者であろうと

従順な下僕であろうと


そしてそなたの住まう

この壮麗な宮処すまい

螺旋の如く下界からそびえ立つ

嗚呼、ぬかずかねばならぬ

至上の美のすその足下に

この世ならぬ美を奉納するために

だがありふれた美酒など

そなたの前にはただの水

ならば捧げ持とう

かのユダヤの王女も口にした

凍れる血のように紅き美酒を

ただその赤き唇へ運ぶために

そしてありふれた薔薇もまた

そなたの前には無力であろう

ならば探しに行こう

この世の果てまでも

燃える氷のように蒼き薔薇を

ただその白き指先へ運ぶために


そなたにかしずくことこそが

我が至上の喜び

麗しき龍の女帝よ

至高の眼の女性おみな


そなたが持ちたる龍玉りゅうぎょく

我ら人には過ぎたるもの

それはあたかも夜空のとばりの彼方

遙かなる星々

くらき闇を仰ぎ見ぬ者には

目にすることが叶わぬ輝き

しかり

それは我ら人間の凡庸な愛などという

脆弱ぜいじゃくな武器では決してちぬ

至高の宝物ほうもつのひとつ


謳え、謳え、謳ってみせよと

至高の女性おみなは私に命じる

私は謳い、謳い、謳いながら思う


その心、溶かすのならば心と引き替えに

その命、燃やすのならば命と引き替えに

だが龍の女帝よ

戦場で煌めく歴戦の勇士達をも

その鱗の様に冷たい

細く白い指先で弄びながら

そなたはことごとくく阻み続ける

されど、そなたは阻みながらも

貪婪どんらんに求め

それでいて、背け続けるのだ

そなたの心を完全に支配する何者かが

この完全なる調和を保つ

美しき宮処すまいの戸口に立つその日を


そなたにかしずくことこそが

我が至上の喜び

麗しき龍の女帝よ

至高の眼の女性おみな


畏れ多くもそなたを彩る事を許された

宝石の如き詩篇しへん

命尽き果て、この身が乾き

土へと還る《かえる》日がくるまで

私は謳い、謳い、謳い続けるだろう

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吟遊詩人は歌う あきのな @akinona

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