三章 瞬くガラスの輝き

アイツは、まるでガラスだった。

そして、輝きでもあった。

叩きつければ、簡単に粉々になってしまうほど、弱いガラスだった。


ため息をつく。

アイツにもう一度会いたい。

そんな戯言を考えながら、花畑の丘を登る。


丘の端に立つ。

柵を飛び越えれば、きっと俺は死ぬだろう。

ここで死んでやっても良い。

でも、アイツに会うまで死んでやらない。

アイツの泣き顔ほど、見てて辛いものはないから。


「死にたい」

そう言えば、アイツはどんな言葉をかけてくれるだろう。

どんな顔をするだろう。


『死んじゃやだよ』

『私は生きててほしい』

『一緒に生きる意味を探そ?』


グシャグシャに泣くアイツの顔が浮かぶ。

その言葉を聞いてしまえば最後。

きっと俺は飛び降りる勇気なんて無くなってしまうだろう。

単純な人間なのだ、俺は。


目を伏せる。

零れ落ちる涙が、会いたい気持ちを加速させた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


気がつけば辺りは静寂に包まれていた。

頭上では星が輝いている。

天気予報なんて見ない俺は知らなかったが。


「うわぁ…………」


どうやら今日は流星群の日だったらしい。

空には無数の光の線がある。

この場所も一応展望台のようになっていて、人がたくさんいた。

だが、俺がいるのは、人の群れから一歩外れた場所だったようで。

通りで静かなわけだ。


こんなの見たら、思い出してしまう。


『ねえ、見てよ!すっごい綺麗だよ!』

『流星って、願い事したら叶うんだよね?』

『じゃあお願いは、君と一緒にずっといられますように!えへへ』


本当にそうなれば良かったのに。

日に日に心を蝕む後悔が、虚しさが、どんどん募る。

どうして忘れさせてくれないんだろう。

どうして忘れられないんだろう。


あの日、俺とアイツは、一緒に天体観測に来ていた。

アイツの提案だった。

家に望遠鏡があるとかなんとか言って成り行きで決まった天体観測。

約束の時間、アイツはでかい望遠鏡を担いできた。


あのへんにカシオペア座が〜、だのこの星はなんだ?だの。

まあ楽しかったから良いが、そんな経験があったから、思い出してしまうのだ。


―――アイツのこと、叩き割ってしまえばよかった。

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