ハラスメント断罪

桐原まどか

ハラスメント断罪



久和は唇を噛んだ。

彼はいま、裁判所にいる。もっと言うなら<加害者>として訴えられたのだ。

罪状は<告白ハラスメント>及び<相手に対する好意の強要>。


久和が愛の告白をしたのは、三木紗雪という、会社の後輩に対してだった。

相手はそれを「先輩という立場を利用し、無理やり交際に持ち込もうとした。『好き』と言わなければいけない雰囲気にされて、とても怖かった」と訴えたのだ。

久和には、もちろん、そんなつもりは微塵もなかった。だが...証言台で涙ながらに訴える紗雪に同情の視線が、久和に非難の視線が向けられた。


―おかしい、こんなのおかしいだろ?好きな人に「好き」と伝えただけで、訴えられるなんて...


気が付くと久和は叫んでいた。

「おかしいだろ!」と。

退廷を命じられた。


陪審員たちの出した判決は<有罪>。

執行猶予1年、懲役半年、というものだ。

判決を受け、久和は泣く泣く会社を辞めた。

次の勤め先でも、どこから話が漏れたのか、「あの人、告白ハラスメントで執行猶予中らしいよ」「こわーい」と噂され、いたたまれなくなって、退職した。

現在はコンビニの深夜バイトで凌いでいる。


久和は思っていた。

こんな目に遭わされるなら、いっそ法律で<恋愛禁止>にでもしちまえばいいのに。

みんなが大好きなAIに結婚相手も選んでもらえばいい...。


様々な事柄をハラスメントとして、気軽に訴えられるようになった時代。

何が起こるか、知れたものでは無い...。

明日は我が身かもしれない...。

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ハラスメント断罪 桐原まどか @madoka-k10

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