光が言うには

弐月一録

光が言うには

「間もなく生まれるよ」


真っ白な空間だった。姿形のない、ただの光がそう言った。


そもそもまだ僕もやっと形ができ始めたところなんだけれど。


わかったのは、これから形が完成したら僕は1つの命として誕生するということだ。


「これを見てくれ」


突然、白い空間に無数の黒い点が出現した。点はずっと先の方に続いている。光が言うにはこれは足跡というらしい。



「これから君はとある星に既存する、何かしらの生き物として生まれる。全身に毛が生えた物や全身がツルツルな物、その他針が生えた物やヌルヌルした物なんかもある」


足跡、の形は様々だった。点がいくつもあったり細長かったり、三角だったり。同じのが2つとない。


中には先に続いていない足跡がぽつんとあった。なんだか細く絡み合ってごちゃごちゃとしている。


「ああ、それは植物の根の跡だ。あいつらは歩かないから先には続かない。死ぬまでずっと同じところにいるのが好きだから」


光はそう説明した。


どうやら、僕にはこの足跡の中から1個を選ぶ権利があるようだ。


選んだら、その姿形で誕生することができる。


どれにしようか迷う。


足跡だけじゃどんな生き物になるのか想像もつかない。


僕は点が5つあって、その下に少し曲がった形の足跡を選んだ。


「人間を選ぶか」


選んだ途端、他の足跡はなくなり、白い空間には人間の足跡だらけになった。

「また大変な生き物を選択したな。先に行ってみようか」


光にそう言われて、僕は足跡の続く先の方へ進んでいく。


白い空間は無限に広がっているようだ。人間の足跡はびっしりと空間を埋め尽くす。


途中で途絶えているものもあれば、消えかけているものがあった。


光が言うには、途中で消えているのは寿命というのを迎える前に命が消えた人間の足跡で、消えかけているのは命が消えかけていることの表れ。


つまりこの無数の人間の足跡は、これから僕が生まれ落ちる世界にいる人間のものなのだ。


命に限りがあることを知った。


せっかく生まれるのにもったいないなとも思った。



「君はね、生き物で1番大変な人間を選択した。誕生して生きていけばたくさん選択をしていかなくちゃいけない。面倒くさがって先に生まれた人間の足跡を、単純に踏んで辿っていくようなつまらない人生にならないことを祈る」


僕の形はいつの間にか完成されていた。白い空間を踏みつける。僕の、僕だけの足跡ができた。


「どうだい、楽しいだろう。他の足跡と重なっちゃあ自分のが見えなくてつまらないぞ。白い所を進んでいけ」


僕はできたての頭を光に向かって下げた後、何もかもを忘れて産声をあげた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

光が言うには 弐月一録 @nigathuitiroku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る