いちごパフェをあなたと

アリサカ・ユキ

いちごパフェをあなたと

いくつかの小売店が立ち並ぶ。人々の往来は少なく、寂れたこの商店街で、陽光はひたすらにひだまりを鼓つ。平日の、午後。あたしたちは手を繋いだままに、そこを歩いた。一歩一歩が、2人の存在証明だ。老人が、睨むようにこちらを見てきた。だったら、厳しい目つきで見返す。2人のスカートが風に翻った。あたしたちの白い足に視線を固定したその老人を蔑む。

「昨日、イオンモールへ行ったよ」

彼女は、頬をピンクに染めたままに、しかしあたしの目を見ない。

「そう。ブラックフライデーのセールしてたでしょ」

疑っとこちらは、相手の茶色の瞳孔を覗くのだけど、彼女はもじもじとする。

「しってる? 世界はいちごパフェで成り立っているの!」

いつものように、突然変わる話題に、笑みを返すだけ。

「だって、あたしがね? そのとき、手を挙げたのね? そう、モールの本屋さん入ったところよ。するとこちらを見ていたベビーカーの赤ちゃんがふわあ、と綿菓子のように笑いかけてきた! あたしはさ、にっこりと返したよ!」

主観視点固定の頭の悪いような話題に少し苛立ちながら、あたしはスカートのポケットからSuicaを取り出す。

「ねえ、何か飲む?」

「選ぶのは嫌い。そこには何もないから」

「じゃあ、つくるしかないよ」

彼女は、さっと初めてこちらを見た。困惑げな、痛みを堪えたような、わずかな涙目で。

「つくることはさ、痛いよね」

「女だからね」

せまい、レンガの道。あたしたちの背中から、白い車が幅に迫ってくる。クラクション。昼の明るい蒼空へと高く鳴る。それで、やり過ごすと、彼女は、立ち止まった。視線は地面にあり、やがて、ゆっくりと顔をあげた。

「だから、いまだに苦労してる」

「苦労なんてなくならないよ。いつでもあるものよ。それを踏まえた上で、幸福かどうかじゃないの」

やがて、彼女は真面目な顔つきをして、あたしを握った手に力を込めた。

「だから好きなのかもね」

「あなたの柔らかい手が好きよ」

こうして、あたしたちは歩いていく。そこにいるだけで存在を試される2人は。

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