第2話

 1人の青年が森の中へと入ってきた。

 そして本来は森の加護により辿り着けない聖剣のもとへ青年は辿り着いた。

「お前が魔女ハロルドだな?」

「魔女と名乗った覚えはないし、ハロルドは村の名前だろ」

 月日は流れ、精霊も今や心も体もくすぶり、魔女のような風体であるため青年が魔女と呼んでもそれは致し方がなかった。

「村人から話は聞いているぞ。男を森へ誘い、さまよわせて生気をすすっているそうだな」

「どんな尾ひれがついたらそうなる!?」

「それに村人を傷つけて、家屋を破壊しているそうだな」

「向こうから攻撃をしたんだろ」

「まだしらばっくれるのか!」

「お前もあいつらと同じ様に話が通じないようだな」

 月日が流れているせいで精霊はすっかりあることに忘れていた。

 ここには勇者しか訪れないということに。

「とっとと帰れ!」

 精霊は暴風を発生させ、青年を吹き飛ばそうとする。

「何も考えずにのこのこと敵の前に現れるなんて馬鹿だね」

「ぐっ!」

 だが青年も無策できたわけではない。

 青年が前に出て、精霊の注意を惹きつけ、そして後ろから仲間が攻撃する予定であった。

 けど、仲間からの攻撃がこない。

 おかしい。仲間は何をしているのか。

 でも、それは仕方のないこと。

 ここは選ばれたものにしか入れない領域だから。

「おらおら! とっとと出ていけ!」

 精霊は暴風で吹き飛ばそうと力技を駆使する。

「くそが! 負けてたまるか!」

 青年は脚に力を込め、一歩一歩前に出る。

「強情な!」

 それに精霊はますます力を入れて暴風を発生させる。

 暴風は渦となり、竜巻となり、そしてとうとう青年を天高く上空へと吹き飛ばした。

「フン! 人間風情が!」

 勝ち誇った精霊は鼻を鳴らした。

 だけど──。

「まだだ!」

「!?」

 上空に吹き飛ばした青年が精霊へと一直線に落ちる。

 そして剣で精霊を真っ二つにする。

「くそがぁぁぁ!」


  ◯


「す、すまね。遅れちまった」

「ごめんね。なんか結界か何かで入れなかったの」

「弁解のしようがありません」

 精霊を倒した後、青年の仲間達がやってきた。

「魔女はどうしたの?」

 女魔法使いが青年に聞く。

「倒したよ」

「なるほど。だから結界は消えたのですね」

 僧侶が頷く。

「でもなんで俺だけ結界内に入れたんだ?」

「それはあれだろ。あの剣の導きってやつさ」

 戦士が台座に突き刺さっている聖剣を指差す。

「聖剣……まじであったんだ」

「魔女が聖剣を隠していたって話は本当だったのね」

「試しに私がやっても?」

「なんで僧侶のお前が?」

「私も男ですからね。一度は経験したいものです」

「あ、それなら俺も。人生一度きりのチャンスだ」

「いいよ。やってこいよ」

 そして僧侶と戦士は聖剣を抜こうとするも、うんとすんともしなかった。

「無理でした」

「硬え」

「さてと、真打登場と行きましょうか」

 青年は台座の前に立ち、聖剣の柄を握る。目を閉じて、一息吐く。腕と背中に力を込め、ゆっくりと聖剣を引き抜く。

『おおおお!』

 青年を見守っていたパーティーメンバーが歓声を上げる。

 剣先まで引き抜き、青年は聖剣を天へと掲げる。

「俺が勇者だぁぁぁ!」


 ──こうして新たな勇者が生まれたのであった。

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勇者を訪ねて三千里 赤城ハル @akagi-haru

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