勇者を訪ねて三千里

赤城ハル

第1話

 むかしむかし、魔王がいました。

 魔王が人間界で悪さばかりするので、神様が魔王を倒しました。

 それでも完全に脅威は去ったわけではないので、今後の脅威に対して神様は聖剣を人間に託すことにしました。

 そしてその聖剣をまもるのが精霊の私の宿命。

 まあ、要は第二の魔王が現れたら勇者がこの聖剣を抜いて、神に代わって倒せという話。

 神様もめんどくさがりなんですね。

 後のことは人間に任すなんて。

 ちなみに神様が本当にいるのかと聞かれるとそれは分からない。

 精霊の私を創ったのは神様だ。

 でも記憶はない。

 物心ついた頃には私はこの森の中で独りっきりで聖剣を護るという義務が記憶として刷り込まれていた。

 私はいつ覚えたのかも分からない記憶を頼りにこの森でずーと聖剣を護っている。

 精霊も聖剣もあるんだから神様はいるよね?

 それにしてもいつになったら勇者は訪れて、この聖剣を抜いてくれるんだろうか?


  ◯


「なっげー! なっげー! いつだよ! いつになったら来るんだよ!」

 どれだけの年月を待とうとも勇者は来なかった。

 私はとうとう森を出て、近くの村に辿り着きました。

 名はハロルド村。農作物で暮らしている村。

 いきなりエルフが現れたら村人も驚くと思うので私は人間の姿になりました。

 けど余所者は珍しいのか村人の目がびしびしと突き刺さります。

 とりあへず情報収集を。

「あのう」

 声をかけると村人達は去って行きました。

「…………」


  ◯


 村人と仲良くなるのに2年かかりました。

 しかも村に住む羽目にもなって。

 まあ、ずっと森の中で聖剣を護ってた頃に比べれば、それなりに充実はしています。

 やることがあるって素晴らしいですね。

 そして勇者のことですが、何の情報もなし。

 聖剣についてもです。

 この辺境地め!

 これだと他の村でも聖剣の話は伝わってないのでは?

 そこで私は森の中に勇者だけが抜ける聖剣があることを村人に吹聴しました。

 するとどうでしょうか。

 村人達が聖剣を抜きに来たではありませんか。

 遊び半分、力自慢、ナルシスト。

 いやいや、お前らじゃない。

 勇者だよ。こっちは勇者を求めてるんですよ。

 なんだよ。もしかして自分は特別なやつとでも思ってんのか?

 ちなみに聖剣の場所は森の加護によって一般人が辿り着けないようになってます。

 馬鹿どもは森をさまよい、肩を落として帰ってきます。

 そして私に「嘘つきが」と文句を言います。

 これが原因で村人達と距離ができました。

 さらに十数年が経ち、私がまったく歳を取らないので村人達から魔女と呼ばれて、石を投げられました。

 こうして私は村を出て、もっと大きな町で情報収集することにしました。

 別に問題はありません。もともと閉鎖的な村でしたので、見切りをつけていましたし。


  ◯


 私がそこそこ大きな町に着くと、たまたま行商人が王都に行く予定でしたのでご同行させてもらい、一気に王都へ向かいました。

 この時、私は魔法使いのなりをしていたので行商人からしたら護衛として役に立つと思ったのでしょう。

 王都に辿り着いて、すぐに私は驚愕するものを見ました。

 それは勇者の銅像です。

 広場に聖剣らしきものを天へと突き出したポーズをする勇者の銅像があるではありませんか。

「なんですか? これは?」

 私は行商人に聞きました。

「勇者パラディーンの像だよ」

「勇者いるんですか?」

「いたよ。だいぶ昔だけどね」

 え? でも、森に訪れてないんだけど。聖剣抜いてませんよ。

 もしかして聖剣抜きで魔王を倒した?

 私は行商人と別れ、武器屋に向かいました。

「剣がたくさんありますね」

「そりゃあ、ここは天下の王都だ。世界中の武器が集まるんだぜ」

 ぼうぼうの髭を蓄えたおっさん店主が自慢げに答える。

 確かに剣、槍、棍棒、ハンマー、魔法のステッキ、鞭、トンファーまで様々ある。

「ふむ。もしかして聖剣があったりとか?」

 冗談まじりで聞きます。

「はっはっはー、聖剣はここにはねえよ」

「……ここにはない?」

「おう。王様が待ってるぜ」

「なんで?」

「なんでって、そりゃあ勇者パラディーンの遺産だよ」

「勇者パラディーン。それって銅像の?」

「おうよ。1000年前に魔王帝国があって、そこにいた魔王を勇者パラディーンが倒したんだ」

「魔王って、もう倒されてたのか」

 これはショックだ。

 それだと聖剣を長年護ってた私の立場は……。

「その後も魔王が現れては歴代の勇者が倒したんだぜ」

「ん? 歴代?」

「750年前には北の魔王軍が王都に進軍してな」

「魔王軍と戦争してたんですか!?」

「ああ。この地は魔王帝国の領地だからな。それを奪い返そうとかつての魔王軍の子孫が進軍してきたのさ」

「……いやいや、なんで魔王帝国の領地に国を建国してるんですか」

「さあな? 勇者パラディーンからしたら魔王城がたいそう利用価値があったんだろ」

「もしやここの王様は勇者パラディーンの子孫と? そしてその子孫が新たな魔王を倒したと?」

「いいや、違うぜ。倒したのは別の勇者だ」

「な、なんと」

「その後は500年前に東の魔竜王。次に350年前に南の魔王将軍が現れて、それで魔王国が生まれたんだ。そして人間との戦争。その後は100年前の西の獣神との争いだな」

「もしかしてそれぞれも別の勇者が?」

「当たり前だろ。ずっと生き続ける勇者なんているか?」

「そうですね」

 いやいや、どんだけ勇者いたんだよ。

「聖剣は王様から譲り受けたと?」

「違うぜ」

「まじですか? ならどうやって?」

 てか、王様ケチだな。聖剣譲ってやれよ。

「んなもん聖剣に決まってら」

「ええ!? 聖剣って、他にもあるの!?」

「あるに決まってんだろ。エクスカリバー、カリバーン、アロンダイト、ティルフィング、ガラティーン、アスカロン、カーテナ他にも色々な」

「多すぎ。あれ? 魔王の数と聖剣の数が合わないけど?」

「ああ、それは地方の魔竜や巨人、あとは鬼神とかあるからな」

「……そうなんですか」

 私は店主に礼を言って去りました。

 その後、宿を借りて、ベッドに大の字で寝転びます。

 魔法で防音障壁を作り、私は怒鳴り叫びます。

「なんじゃあ、そりゃあぁぁぁ! 聖剣は何本あるや!?」


  ◯


 私のいた森に勇者が訪れないということは知名度が低く、他の聖剣のある地域に負けているからであろう。

 ならやはり聖剣についてあちこち流布すべきであろう。

 まずは武器屋の店主に、

「ハロルドの村を知ってますか? あそこに聖剣のある森があるそうですよ」

「へえ」

 あら、あまり乗り気ではない?

「気になりません?」

「そういうのは五万とあるからな」

「五万?」

「実際それだけあるわけではないけど、それだけ多いってことさ。丘や森とかにそういう話は付きものなのさ」


  ◯


 その後もなんとか考えるもどれもが二番煎じだった。

 なくなく私は森へ戻ることにします。

 途中、立ち寄った町で勇者候補生らしき人物の話を聞きました。

 しかもまだ聖剣は持っていない。

 これは願っても叶ったり。

 私は夜に精霊の姿に戻り、勇者候補生の枕元に立って、天啓のこどく聖剣の情報を授けます。

「この宿ですね」

 精霊状態の私は空も飛べますし、壁もすり抜けることもできます。

 さあ、どんな勇者なのかしら?

 私が壁をすり抜けて部屋に入ると──。

『あっ!?』

 なんと先客の精霊がいました。

 向こうも突如として私が現れたので驚いています。

 どうやら向こうも私と同じ考えで寝ている勇者候補生の枕元に立って、天啓授けようとここに来ていたらしいのです。

 しかも今、天啓を授けている最中。

『…………』

 私は黙って後ろ向きにバックして部屋を出ます。

 翌日、私はあの夜の精霊に怒られました。

 でもこっちだって貴女がいるって知らなかったんですから。


  ◯


 ハロルド村に戻ってきた時、私は村人に「魔女だ」と石を投げられました。

 その時の私は間違って以前この村にいた時の姿をしてました。

 ああ! もう! めんどくさい!

 ブチギレた私は風魔法で、石を投げてくる村人を吹き飛ばしました。ついでにいくつかの家屋も薙ぎ払いました。


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