最初で最後の僕の恋

はなつきみぃこ

僕はカマキリ

「はぁ…はぁ…」

ここは…ここはどこだろう…。

僕はなぜか、あの人の家のトイレの前にいた。

動かない体、薄れゆく意識

死が近いことが僕にもわかる。


こんな姿でここにいたら、あの人は驚くんじゃないだろうか…。

でも、でも最後にひと目逢いたい。

美しいあの人に…。


あれは、僕が迷子になっていた幼い時。

「人間は恐ろしいものよ」

母さんによく聞かされていた。


早く家に帰らないと、人間に見つかってしまう…。

あっ、足音がする。人間だ!


そこに現れた、綺麗な女の人…。

僕を見つけて、一瞬驚いた表情をした。


あぁ…潰される。


僕は死をも覚悟した。


「カマキリのこどもだ」

笑顔になったその人は、僕を草むらへ運んでくれた。


えっ?僕を助けてくれたの…?

恐ろしい人間ばかりじゃないんだ。

良かった。ありがとう、綺麗な人!


もう一度あの人に逢いたい…。

この気持ちってもしかして⁉

僕はどうやら恋に落ちたらしい。


〜その後カマキリは、『イケメンカマキリ』に成長した。

「ねぇ…私たちの子供を作りましょ」

言い寄ってくるメスのカマキリたち…。

交尾をした後、オスはメスに食べられてしまうという悲しいカマキリ界〜


メスに食べられてしまったら、もうあの人には逢えないじゃないか…。

一生童貞だってかまわない!もう一度あの人に逢えるなら。


僕はどんな誘惑にも負けず、その日がくるのを待ち続けた。

そして今…僕はようやくその日を迎えたみたいだ。


トイレの扉が開く。

「ん?なんでここに?」

あの人の声だ。やっぱり驚いている。

目がよく開かなくて、あの人の美しい顔がはっきりとは見えない…。

それでも僕は、再会できたことに高揚していた。

やっと、やっと逢えた。


その後、案の定僕は外に出された。


さ、寒い…。


いつの間に季節が進んだのだろう。


カサカサ…カサカサ

あれ、あったかい。なんだろう…


それは、あの人が僕にかぶせてくれた落ち葉だった。


なんて優しい人なんだ。

あの人を好きになって良かった…。


神さま、生まれ変わったらまたあの人に逢わせてください。

そう祈りながら、僕はゆっくり目を閉じた。

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最初で最後の僕の恋 はなつきみぃこ @B_NASU

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