最終話 君の隣で笑い合いたい

 色々とあったけど、僕たちは大学に通うために同棲を始めた。うちの両親は直ぐに承諾してくれた。


 兄貴に言ったら「お赤飯を炊こう」と言っていたから、軽く二人で微笑みかけたら小さい悲鳴をあげていた。


 としくんの両親はどうだろうと考えていたけど、意外にもあっさりと認めてもらえた。それはいいんだけど、お母さんに「お嫁に来てね」と言われた。


 そのため軽く彼を睨んでみたけど、無駄に上手い口笛を吹いていた。まあ、いいやと無理矢理に納得してしまった。


「陸、ここが俺たちの愛の巣だぞ」


「んーと、これはここに……」


「……真面目にやりますので、無視しないで下さい」


 部屋に荷物を運んでもらって、片付けを始めていた。しかし、真面目な顔をしてそんなことを言うとしくんを僕は無視した。


 自分たちの部屋をある程度片付けて、次はリビングの片付けをしている。部屋には水槽で金魚が仲睦まじく泳いでいる。


 この金魚は、二人で大切に育てて行こうと思う。この金魚と同じように、僕たちも仲睦まじく過ごしていきたい。


 一人暮らしもしたことがないのに、二人で暮らすなんて少し不安だったけどとしくんとなら大丈夫なような気がする。


「り〜く、少し休憩しないか」


「そうだね。色々と大変だったしね」


 そう言って、夏に僕が買ったマグカップでココアを飲んでいた。僕にはとしくんが、愛用しているマグカップにコーヒーを注いできてくれた。


「熱い……」


「ほら、冷ましてから飲んでな。ふうふう……いいかな」


「うん、美味しい」


 僕はとしくんに後ろから抱きしめられいる状態で、卒業アルバムを開いて二人で見ていた。


 そこには一年の時の僕の後ろに、背後霊みたいなとしくんが写っているのに気がついた。


「としくん、これ……」


「あー、陸とのツーショットが欲しくて……でも、皆んなからは幽霊として扱われたから誰にも言えずにいたんだ」


「……気持ちは嬉しいけど、こんなことしなくても言えばよかったのに」


 なんて……彼の存在に、気が付かずにいた僕が偉そうに言えることじゃないけどね。僕は彼の方に体を向けて、首に腕を回して抱きついた。


 少し困惑気味な彼の表情が見えて、僕は嬉しくなって微笑む。すると彼は直ぐに僕の目を見て、微笑み返してくれた。


 彼は僕の腰を優しく支えてくれて、胸が熱くなってくるのが分かった。キスをしようと顔を近づけると、マグカップに桜の花びらが浮かんでいるのが目に入った。


「桜、咲いてるみたいだね」


「ああ、だな」


 僕らの部屋からは公園の桜ではなく、大学近くの桜並木の桜が見えた。僕らにとって桜は、幸せの印で大切なものだ。


 僕がそう思っていると、としくんはいつもより優しい三割増しの笑顔で聞いてきた。


「桜の花言葉って知っているか」


「ううん、知らない」


「【あなたに微笑む】って、言うんだよ。俺らにピッタリじゃないか?」


「そうだね。まるで今の僕らだよ」


 そう言って僕らは必然のように、お互いの唇を何度も重ね合わせた。何度こうして合わせても、慣れるどころかむしろどんどん離れたくなくなってくる。


 彼も僕と同じ気持ちだといいなと思って、顔を見ると穏やかに笑っていた。不意に名前を呼ばれて見ると、僕の頬を触っていてその手がいつもよりも暖かく感じた。


 差し込んでくる夕日のせいか、それとも僕らの体温が上昇しているせいかは分からない。少なくとも、後者であることは間違いなかった。


「俺は君の隣で、これからも笑っていたいから」


「僕もだよ。としくんの隣で、一緒に笑い合っていたい」


 突然の愛の告白に僕も嬉しくなって、素直に自分の気持ちを伝えるようになった。何度伝えても、伝えてもらってもやっぱどこか不安で……。


 相手のことが信じれないわけじゃない。それなのに、些細な不安に感じてしまうのはそれだけこの恋に心底溺れているから。


 これ以上好きになるのは、正直怖い時もある。それでも彼となら、もっと溺れてもいいじゃないかって思えてくる。


「としくん、好きだよ」


「俺もだよ。陸……好きだ」


 耳元で愛してると囁かれて、ますますこの恋に溺れていく音が聞こえた。お互いがなくてはいけない存在に……。


 唇を重ねているだけで、とても満たされる。彼の顔を見ているだけで、全てが報われていると思えてくる。


 ――――この人と出会えてよかった。


 心からそう思えるそんな人に、彼以上に好きなる人なんてこの先絶対に現れない。そんな運命の赤い糸で、結ばれている僕たちの物語。

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君の隣に立ちたいだけなのに〜自分に自信がないが実はモテている少年が、イケメン幼なじみに溺愛されています〜 若葉有紗 @warisa0430

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