一握の砂

「うぃぃぃぃぃぃっす!」

 オレは、イチアク。

 今、オレの目の前に広がるのは、水の国。

 女王アクアにオレは召喚されて、相撲部員独自の挨拶をかました。


 なんでも、乾きの国の乾きが昨今激しさを増し、水の国を攻め滅ぼす勢いとか。

 で、それはわかったけど、相撲部員のオレがなんで召喚?


 きょとんと、つっ立っているオレに、波の猛者カイヘイが、電気ノコギリの波を一千本波立てて、オレを襲う。

「どすこい!」

 たまらず繰り出したオレのツッパリに、電気ノコギリの波が裂ける。


「やはり、アクア様」

 カイヘイがしたり顔して見ると、アクアは言った。

「あなたのツッパリには、全てを跳ね返すスキルがある」

 全てを跳ね返すスキル?

 オレのツッパリを繰り出す分厚い手は、テッポウで毎日鍛えてきた賜物だ。

 

 でも、本気で突っ張ったことがない。

 再起不能にしてしまうからだ。

 そう、オレはいつも、手を抜かねばならない欲求不満を抱えている。

 でも、異世界なら! 

 思う存分! 

 この力を、発揮できるのに・・・・・・


 オレは広大無辺に広がる砂浜にしゃがみ込み、どこまでも続く同じ砂粒の中から足元の一握を、この手でつかんだ。

 それは唯一無二に選ばれた、一握の砂。


「うぃぃぃぃぃぃっす!」

 オレは、イチアク。

 いつになったら? 

 いったい誰が?

 乾きの国に呑まれそうなこのオレを、この膨大な砂粒の群れから、唯一無二の一握として拾い上げてくれる?


 オレは、一握の砂を放り捨てると、昼休みに寄った浜辺を後にして、営業車へもどった。



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THE.短編 美香野 窓 @inohaya

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