家電
電話が、スマホをいじくる視線の先で鳴っている。
家電、どうせ、また営業でしょ。
彩香のショートパンツから伸びた両腿が、スマホのメッセージにビクッと反応した。
(これから会いたい)
腹減ってない?
ちょっと前までは、そんな間接的クエスチョンで切り出してきたのに、今ではすっかりむきだしのダイレクト。
これから会いたい。
今すぐ!?
ウーバーじゃないんだから!
(うん、まあ)
(じゃ、行くね)
彩香は慌てて鏡の前に駆ける。
こんなんでいいのか、わたし?
ウーバー女で。
急いで、解れた髪を梳かし、休日ずっと、こもりきっていた腐女から女子に戻らねば。
その合間も、家電が鳴っている。
たく、ホントしつこい営業ね。
こないだメッセージ聞いた後、うっかり留守電にすんの忘れちゃった。
こちらの都合も考えないで、最近唐突に会おうとする彼と家電の迷惑電話が、彩香の中で重なる。
夜を遮るカーテンの白とピンクのストライプは、永遠に混ざることがない。
だって、そんなのわかってるし。
ふと、シラけた彩香は、櫛を棚に置いて、家電の受話器をとり耳に当てた。
こんなタイミングでなければゼッタイに出たりしなかった。
本音を迷惑電話にぶつけてやりたい。
「ちょっと、迷惑なんですけど!」
「あ、オレだよ、仁科。急にごめん」
仁科? 会社の同僚だ。
なんで、私の家電知ってる?
「忘れた? こないだ家電教えてもらったの?」
「あ! ランチの時、聞いてきたよね。思い出した」
そう、偶然鉢合わせた職場近くの店で仁科、ランチおごるから、家電の番号を教えてほしいと。
あの時は、仁科への仕事サポートが、ランチのおごりに繋がったのだと思った。
家電の番号を聞かれた件は、仁科からというより会社の指示だとかってにとらえていた。
玄関のインターホンが鳴り響いて、ドキっと胸の鼓動が薄着を震わせる。
「京野さん? 今、だいじょうかな? なんか、お客さん来た気配が・・・・・・」
「だ! いじょうぶだよ、で、なんで仁科、家電なの?」
「家電なら、間違いなく家にいるから」
「家にいても、わたし、出ないし、ふつう」
「でも、今は出た」
「なんなの、それ? ひょっとして、何度もかけた?」
「何度もかけた。オレ、京野さんの家電になりたい」
「は?」
「京野さんに告る時は、家電て、決めてた」
また、インターホンが鳴り響くと、部屋全体にコダマして、彩香の生活全体を包み込んでくる。
「あ、ウーバーだから! 気にしないで」
ショートパンツから伸びた二の足を絡めながら発した。
「一人で部屋にいて、悶々として、迷惑営業でもいいから、なんか人と話したいって時。そんな京野さんの家電に、オレのことしてほしい」
彩香は、受話器を耳に当てたまま、部屋の明かりを消した。
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