最終話

 幼木は、一本の巨大な煌樹に成長していた。

 その幹の根本には、うずくまるファムの姿が。



雨が降る。


風が吹く。


雪が積もり、


春を迎える。




 自分の意思に関わらず、空気中から魔素を取り込み、生き続けてしまう。

 身体が傷を負ったとしても、自動的にヒールがかかり回復する。そもそも、キューブが自動反射で弾いてしまうが。


 知り合いももう、いない。目的も、やりたい事も無い。何を見ても、何も感じない瞳は開く必要が無い。


 神の元に戻る事も出来ないし、戻りたくもない。魔素を蓄積しなければいけない枷も無い。


 一番聞きたい声は、もう二度と聞く事は出来ない。

 救いを求めて、足掻いて失った。一番大切なものを。


 残ったのは死と同意義の無だけだった。








 それは、無限に続く地獄。



 ただ呼吸をして、そこに存在し続けるだけ。




























〈ピクっ〉

 

 ファムの耳が動いた。





「あんのクソジジイ! 散々手間かけさせやがってよぉ! 首輪でハァハァ、拘束してハァハァ何でやねん!! はぁ……。かなり時間かかってもーたなぁ。キレるわなぁ。怖ぇえなぁ……。刺されるんちゃうか? いや、……忘れられてるまで……あるんちゃう?」






 ファムの視界は歪んでいた。流れ落ちる涙も止まる事など無い。

 身体は一重に、声のする方へ。声のする方へ。

 自然に走り出していた。ファムの走った足跡からは、草花が伸び、花が咲き乱れる。


 まるで、祝福するかの様に。












〈ぼそっ〉

「……ふぅーーーーっ。よし!」



〈ガサガサっ〉


〈ばっ!〉


「なぁねーちゃん! 俺と◯らへん『はい゛っ!! うわぁーーーーん!!』」





 抱きしめ合う二人は、同じ耳の形。




 

 それは、クズのエルフな物語。

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クズのエルフな物語 おちゃと @octkonb4

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